浅田次郎:「天切り松闇がたり 1 闇の花道」を読んだ感想と登場人物の紹介です。

「盗ッ人千人、大臣千人並べたって、そうそういるもんじゃござんせんがね ーー。」

※文庫版 天切り松 闇がたり 第一巻 闇の花道 (集英社文庫)浅田次郎著 P106より引用

曲げれば楽で、曲げれば得があろうとも、一切を曲げずに歩く闇の花道。胸のすく悪漢小説「天切り松 闇がたり」

こんにちは。読書@toiletです。

読書@toiletの読書日記も兼ねて読んだ本の紹介させていただいてます。

天切り松 村田松蔵

本作は浅田次郎先生の「天切り松シリーズ 第1作」です。筆者は、この天切り松シリーズが本当に大好きで、たぶん4~5回は読み返しています。何がそんなに魅力的かというと、物語の要所で登場人物が繰り出すセリフです。例えばこんな感じです。

「へい。承知しております。こちとらべつだん若え者に説教たれるつもりァなかったんですがね。こいつらの半竹(はんちく)な善人ヅラを見ているうちに、どうとも辛抱ならなくなったんで。やい、若えの。こうして噂でもねえ騙り(かたり)でもねえ本物の天切り松に出会ったおめえは果報者だ。悪党も伝馬町の出入りせえ勝手気儘(かってきまま)になるまでにァ、いってえどれほどのヤマを踏まずばなるめえものか、よおっく聞きゃがれ―ー」

※文庫版 天切り松 闇がたり 第一巻 闇の花道 浅田次郎著 P16(集英社文庫)より抜粋

まるで舞台セリフのようで、声に出して読んでみたいと思いませんか?感じ方は人それぞれですが、筆者は本シリーズの最大の魅力は、この小気味良いセリフ回しだと思います。

天切り:

本シリーズは、大正~昭和初期にかけて帝都 東京で名を馳せた伝説の盗賊一味「目細の安吉一家」の活躍を描いています。立て付けは、目細の安吉一家の唯一の生き残り「天切り松」こと村田松蔵という老人が、留置場で罪人や警察官に説教も兼ねて、昔の思い出話を聞かせるというものです。

留置場で昔話を聞かせると言っても逮捕されたわけではありません。上記で抜粋したセリフにもあったように、「伝馬町の出入りせぇ勝手気ままになる―」つまり村田松蔵は、警察の幹部すら一目を置く超大物の悪党で、警察署の留置場程度なら、「ちょっとごめんよ」程度で入れるくらいのVIPということです。ワンピースでいうなら、伝説のロジャー海賊団の一員(副船長)シルバーズ・レイリーといったところでしょうか。

本シリーズのタイトルにもなっている「天切り松」とは、村田松蔵が現役のドロボーだった際の2つ名ですが、「天切り」とは何なのか?ちょうど本文中に解説があったので、以下、抜粋します。

「・・・・ありゃあ盗ッ人でもねえ夜盗(ノシ)でもねぇ、屋根を舞台に見得を切る、音羽屋せえもかたなしの天衣無縫の芸だった

「・・・・ケチな所帯にゃ見向きもしねえ。忍び返しに見越しの松、長屋門に車寄せてえお屋敷ばかり、夜に紛れて屋根を抜く・・・」

「・・・・ねずみ小僧のそのまた昔、富倉藤十郎が大内山の御金蔵からからめ取ったる四千両。江戸の華てえ荒業を今日まで伝えてきた、この天切り松蔵の師匠たァ・・・」

「・・・・屋根に登って瓦をおっぱずし、天井裏から棟木づたいに忍び込むてえ職人芸だ。ご錦蔵の南京錠も、雨戸にかかったしんばり棒せえそのまんま、密室の中からお宝だけが煙のように消えてなくなるてえ寸法よ・・・」

※文庫版 天切り松 闇がたり 第一巻 闇の花道 (集英社文庫)浅田次郎著 P121~126より抜粋

要するに、お金持ちの家の天井に穴を開けて忍び込んで、大量のお金や貴重品を大量に盗んでくる方法ですね。天井を切って抜くから「天切り」でしょうか。

目細の安吉一家

村田松蔵がなぜ警察からも特別扱いを受けるほどのVIPになったのか。それは所属していた「目細の安吉一家」が、すごいドロボー一味だったからです。既に書きましたが、ワンピースで言う「ロジャー海賊団」ですね。

以下、一味の象徴である「目細の安吉」に関する天切り松の解説です。

「・・・抜弁天の親分と言って知らねえカタギでも、目細の安といやァ子供だって知っていた。長屋のガキどもは、よくこんな戯れ歌を唄いながら隠れ鬼をしたもんだ。ーー三社祭の神輿の前で、うちの旦那に中抜きかけた、目細の安、みいっけた。」

「すった財布の中身だけ抜いて、空財布を元通りに相手の懐に戻すてえ離れ業だ。電車専門のハコ師の中にゃ、それをやる奴ァたまにはいたが、盛り場の雑踏の中ですれ違いざまにそれをやるてえのは、古今東西、目細の安をおいて他にゃいねえ。中抜きをかけられた奴ァ、怒るどころか目細の腕に度肝を抜かれて、こいつァとんだ厄落としだと、空財布を神棚に上げたりしたもんだ。目細に中抜きをかけられたと言やあ、それを肴に当分は酒が飲める。どんな面だのどの財布だのと、酒も祝儀も集まるてえもんだ。わかるか、にいさん。銭を奪って有難られる悪党なんざ、きょう日どこをどう探したって、いはすめえ」

※文庫版 天切り松 闇がたり 第一巻 闇の花道 (集英社文庫)浅田次郎著 P33~34より抜粋

アイドルみたいなものですね。もしくは、ゴール・D・ロジャー。天切り松も言ってますが、ドロボーにあって羨ましがられるって。。。ちなみに警察に届け出はされないの?という当然の疑問に対しての答えはこちら。

「あたぼうよ。そんな下衆は江戸ッ子にゃいるもんか。たまに流儀も洒落も知らねえ田舎者ンが、かくがくしかじかと訴え出たと思いねえ。知れたことよ、威勢のいい刑事や巡査がぞろぞろと集まって、調べどころかやれどんな面だのどの財布だのと、またぞろ酒も祝儀も出ようてえもんだ」

※文庫版 天切り松 闇がたり 第一巻 闇の花道 (集英社文庫)浅田次郎著 P34より抜粋

大正時代というと、明治政府が出来てから50~60年くらい、まだ江戸と東京が混ざっていた時代なのでしょう。勝ち組だの負け組だの、得か損かよりも、「粋」と「いなせ」、伊達や酔狂が価値を持っていた、面白い時代ですね。

筆者は、、、田舎者なので現代のほうが良いですが。

闇の花道

冒頭のセリフは、もちろん天切り松こと村田松蔵のセリフです。部分的に抜き出しているので何のことかわかりませんが、前後の文脈を抜粋するとこんな感じです。

「・・・・にいさん方もたかだか銭金のためにヤマを踏むてえ根性なら、これを限りにきっぱりと足をお洗いなせえよ。曲げちゃならねえてめえの道てえのは、盗ッ人にせえ大臣にせえ、たとえ千金積まれたって売り買いの出来るもんじゃあねえ。もっともこれが悔いのねえてめえの道だなんて言い切れるやつァ・・・・」

天切り松はひとしきり強い目で、留置人たちの顔を睨み渡した。

「盗ッ人千人、大臣千人並べたって、そうそういるもんじゃぁござんせんがねーー」

※文庫版 天切り松 闇がたり 第一巻 闇の花道 (集英社文庫)浅田次郎著 P106より引用

本作で、筆者が一番いいセリフだなぁと思ったので、冒頭に抜粋をおきました。「てめえの道」を現代風に「自分の仕事」に置き換えると、より胸に堪えます。

報酬の多寡、社会的地位、見栄え、色々と気にかかることはありますが、「この仕事なら命をかける」と言える仕事ついている人は、そうそういるものではないですねぇ。なお、天切り松こと村田松蔵さんは、ドロボーと大臣を用いた比喩表現が大好きです。

本シリーズを紹介すると、セリフがあまりに魅力的すぎで、本文の抜粋ばかりになってしまうのが難点です。

以上、本文抜粋が多過ぎるけど、なるべくネタバレにならないよう気を付けているので、浅田先生も版元さんも堪忍してください。というお話でした。

この本を読むならこんな人

✔ 転職を考えている人

✔ 逮捕されちゃったことがある人

✔ 警察官の人

※もちろん、上記以外の方が読んでも面白いです。

■作品;天切り松 闇がたり 第一巻 闇の花道

■著者;浅田次郎

■刊行;2002年6月

■版元;集英社

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