浅田次郎:「天切り松闇がたり 2 残侠」を読んだ感想。黄不動と心意気。

 

「こうと決めたら、星勘定も銭勘定もしねぇ心意気は、死んだかかぁにそっくりだ」

※文庫版 天切り松 闇がたり 第二巻 残侠 浅田次郎著 P222(集英社文庫)より引用

 

格好がいい男に、勝ち組も負け組もない。年収の高い低いもない。あるのは「心意気」ただ一つ。 

 

こんにちは。読書@toiletです。

読書@toiletの読書日記も兼ねて読んだ本の紹介させていただいてます。

 

天切り松シリーズ

冒頭のセリフは、浅田次郎先生の 天切り松シリーズ 第2作『残侠』からのものです。筆者はこの天切り松シリーズが大好きで、何度も読んでいます。

本シリーズは現代に生き残った、伝説の怪盗「天切り松」が、現代人への説教として、自身が大物になる前の回想を聞かせる形で進行します。従って、主に大正時代~昭和初期の東京が舞台となります。戦国時代・江戸時代・太平洋戦争を背景とする作品は非常に多いですが、大正~昭和初期というのは小説の舞台として、やや珍しい部類に入るのではないでしょうか?特に大正時代は15年と期間も短く、歴史的な出来事も少ないため、題材として選び辛く、魅力的な作品も少ないのかもしれません。

筆者も本作の時代背景に惹きつけられて、何度も読み返しているわけではありません。

では、何に惹きつけられるのか?というと、登場人物のキャラクターとセリフです。特に講談のようにリズミカルに語られるセリフは、本当に格好良く、声に出して読みたくなります。

以下、本作の主人公が、結婚詐欺で捕まった黒スーツを着たイケメンホストに言うセリフです。犯人のイケメンぶりを褒めた後

「だが、格好が悪い。いいか、スケコマシ。黒ずくめのなりってえもんは、とうの昔からギャングにせえ盗ッ人にせえ大臣にせえ、ここ一番の男の正装だ。そういう身なりをするときにゃ、肝を据えて、背筋もぴんと伸ばしていなけりゃサマにゃならねえ。わかるかえ。てめえは何ともぶざまな野郎だ。」

※文庫版 天切り松 闇がたり 第二巻 残侠 浅田次郎著 P193(集英社文庫)より引用

つまり、

「お前はイケメンだし黒スーツもよく似合ってるが、女性を騙してお金を取ってヘラヘラしている生き方がイケてない」

と言っているのですが、同じ内容を伝えるのでも、天切り松が言うと本当に格好がいいです。天切り松の目線では、社会的地位の高低に関係なく、皆同じ高さで語られます。ヤクザとドロボーと大臣です。どんな人間でも、背筋が伸びないとサマにならないと。

何を主張するにしても心に響く言い方というのは、あるものだなと、改めて考えさせられます。

 

天切り松の兄貴分:黄不動の英治と心意気

冒頭のセリフは、本作の主人公「天切り松」が伝説の怪盗になる前、まだ駆け出しの頃、天切り松の兄貴分である「黄不動の栄治」という人物に向けて発せられたものです。天切り松の兄貴なので当然ドロボーさんで、背中に黄色い不動明王の入れ墨があり、そこからついた二つ名です。この黄不動の栄治を「心意気は大したものだ」と高く評価しているのですが、そもそも心意気とは何でしょうか

本作で、まだ少年の天切り松も分からなかったのでしょう。「心意気とは何のことか?」と聞かれて、黄不動の栄治は下記のように答えています。

「さあな。俺も学校なんぞ行っちゃいねえから、よくはわからねえ。わかりゃしねえが、体は知っている。こうと決めたらとことんやれ。星勘定も銭勘定もするな。盗ッ人にせえ大臣にせえ、それが男の心意気ってもんじゃぁねえのかい」

※文庫版 天切り松 闇がたり 第二巻 残侠 浅田次郎著 P209(集英社文庫)より引用

心意気=一度やる決めたことは、勝ち負けや損得にとらわれることなく、やりきること

実に格好良いです。憧れます。が、現実的には難しい。筆者は可能な限り勝てる勝負がしたいですし、絶対に損はしたくないので。。。

そんな筆者が心意気をもって生きる方法はないものか考えてみます。その上で、一つ忘れてはならないのは、黄不動の栄治はドロボーはドロボーでも、天切り松の兄貴分で、二つ名が付くくらいのドロボーです。つまり、とんでもなく腕が立つドロボーだということです。

恐らく一般的なドロボーだと無謀な仕事を「やる」と決めてしまうと、心意気を発揮する間もなく逮捕されてしまいます。従って、一般人の筆者が心意気を持ちながら生きる方法は、

出来そうもないことは、『やる』と言わない。自分の実力を鑑みて目処が立つことをやる

となります。

これでは心意気があるとはならないように思いますが、なかなか黄不動みたいに格好良くはいきません。とりあえずは「何事も分相応が大切」というお話でした。

参考 天切り松シリーズの他の記事はこちら↓

曲げれば楽で、曲げれば得があろうとも、一切を曲げずに歩く闇の花道。胸のすく悪漢小説。天切り松 闇がたり 闇の花道の感想です。

 

この本を読むならこんな人

✔ 人間は外見ではなく、心意気だと思う人

✔ 警察官の人

✔ 裏社会に生きる人

※もちろん、上記以外の方が読んでも面白いです。

 

 

■作品;天切り松 闇がたり 第二巻 残侠

■著者;浅田次郎

■刊行;2002年11月

■版元;集英社

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