浅田次郎:「天切り松闇がたり 3 初湯千両」を読んだ感想。理想の上司について考えてみた。

「男の言いわけは、体でするもんだ」

※集英社文庫 天切り松 闇がたり 第三巻 初湯千両 浅田次郎著 P258より引用

犯歴のある全ての人間が悪とは限らない、犯歴のない全ての人間が善とは限らない。善悪の判断を法や国家に頼らない、自らの誇りと信義に命をかけるハードボイルド小説。

こんにちは。読書@toiletです。

読書@toiletの読書日記も兼ねて読んだ本の紹介させていただいてます。

天切り松の親分

本作は浅田次郎先生の天切り松シリーズ第3作、「天切り松 闇がたり 第三巻 初湯千両」です。天切り松シリーズの特徴は、何と言っても魅力的な登場人物のキャラクターと、セリフの言い回しです。冒頭のセリフは、伝説の怪盗 天切り松こと松蔵が、まだ駆け出しだった頃に親代わりとなった親分「目細の安吉」のセリフです。安吉にも、もちろん親分がいて、「仕立て屋 銀次」という東京中に、手下が2,000人という大親分でした。いわば東京中のドロボーのトップといったところですね。ところが、この「仕立て屋 銀次」は、安吉以外の幹部のクーデターにあって逮捕され、収監中となっています。そして、ドロボー一味の中でただ一人クーデターに参加しなかった安吉親分が首謀者だ、とでっち上げられている。これがシリーズを通しての安吉親分の置かれた状況です。以下、冒頭のセリフ周辺のやり取りを抜粋します。

「そういうおまえもおめえらしいが、世間様にァきちんと言いわけのひとつもしねえと、親を売って縄張りを盗み取ったなんてえ悪評判もたっちまうんだぜ」

安吉は軽く肯いて縁なし眼鏡をはずし、ぽつりと呟いた。

「男の言いわけは、体でするもんだ」

山源は舌を鳴らした。

「まったく、おめえって野郎は―ガキの時分からどこも変わらねえ」

「ああ。俺が変わらずに、世間が変わっちまったのさ。だから割を食っちまう」

※集英社文庫 天切り松 闇がたり 第三巻 初湯千両 浅田次郎著 P258より抜粋

筆者でしたら、自分の悪い評判が立っていると小耳に挟んだだけで真っ青になり、急いで言いわけを用意し反論します。

これが安吉親分だと

✔ 間違っているのは皆。自分は間違っていない。

✔ 間違ってない自分の言いわけは必要ない。自分が間違っていないことを証明する。

となります。

本作の登場人物は、大体こんな感じで、「粋」「いなせ」という表現がピッタリで、使う言葉は伝法な江戸弁ときていますから、読むだけで大変に爽やかな気分になれます。また自分もこんな人間を目指さなければならない、とうっすら考えてみたりもします。

上司になってほしい人物

引き続き、安吉親分の話です。本シリーズを通して安吉親分がもし実在したとしたら、これは理想の上司(社長?)ということになるだろうと考えます。

以下、安吉親分が幼少時の天切り松こと松蔵に語りかけるセリフです。安吉親分の考え方、部下の育成方針が現れています。

「辛抱だよ、松。辛抱するんだ。おまえよりも私のほうがずっと悲しい。私よりも銀次親分のほうが、もっと苦しいんだ。自分よりも気の毒な人間のいるうちは、辛抱をしなけりゃいけない。上を見ずに、下を見て歩け。自分よりかわいそうな人間だけを、しっかりと見つめながら歩くんだよ」

※集英社文庫 天切り松 闇がたり 第三巻 初湯千両 浅田次郎著 P288より抜粋

本作は、あまりに良いセリフが多いので、紹介すると抜粋だらけになってしまいます。。。

ちなみに安吉親分は、東京のドロボー集団のトップだった仕立屋銀次の後継者と目された実力者です。その人脈は行政府の要人にも広く張り巡らされており、安吉親分が一声かければ、大抵の無理は通ってしまう程の大物です。※なぜ、ドロボーと政治家や政府要人に関係があるかは、本シリーズを読んでいただければわかります。

筆者の様なペーペーが上記の様なことを言っても何の説得力もありませんが、ある程度、地位を得た人間が言うと、ジンと来ますね。

セルフブランディング・生産性・勝ち組などなど、資本主義の世界では、とにかく上ばかり見て歩くことを強要されますが、上に行ったら、下も見なければならない。すごく上までいったら、しっかり下を見つめなければ行けない。人の上に立つ人間に最も必要なのは、その視野の広さのような気がします。

以上、意識高い系もほどほどに、というお話でした。

参考天切り松シリーズの他の記事はこちら↓

曲げれば楽で、曲げれば得があろうとも、一切を曲げずに歩く闇の花道。胸のすく悪漢小説。天切り松 闇がたり 闇の花道の感想です。
格好がいい男に、勝ち組も負け組もない。年収の高い低いもない。あるのは「心意気」ただ一つ。 浅田次郎 天切り松 闇がたり 残侠 感想を書いています。

この本を読むならこんな人

✔ ちょっと最近いろいろうまく行っていない人。

✔ 会社の人間関係(特に上司との関係)に悩みのある人。

✔ 意識高い系の人

※もちろん上記以外の人が読んでも面白いです。

■作品;天切り松 闇がたり 第三巻 初湯千両

■著者;浅田次郎

■刊行;2005年6月

■版元;集英社

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