浅田次郎:「天切り松闇がたり 5 ライムライト」を読んだ感想。説教寅と常兄ィの男気と侠気。

 

「待てと言われた盗ッ人の、待ったためしがあるものか。飯にしようぜ」

※集英社文庫 天切り松 闇がたり 第五巻 ライムライト 浅田次郎著 P231より引用

 

行いの価値とは?誰も出来ないこと、誰もやりたがらないこと、2つの行いの価値は間違いなく高い。

 

こんにちは。読書@toiletです。

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天切り松の大兄貴

本作は浅田次郎先生の天切り松シリーズ第5作、「天切り松 闇がたり 第五巻 ライムライト」です。時代は昭和7年ですから、首相 犬養毅が暗殺された五.一五事件の年、太平洋戦争に突入する前夜ですね。そんな暗い影が忍び寄る東京で、やや年はとってしまいましたが、筆者が贔屓とする伝説の怪盗一味「目細の安吉一家」は、本巻でも元気に飛び回っています。

説教寅(せっきょうどら)

説教寅とは、目細の安吉一家の頭(一の子分)河野寅弥の2つ名です。もとは日露戦争に出兵した軍人で、有名な二百三高知を落とした隊の軍曹だった経歴を持っています。寅弥のキャラクター設定の根幹を為す部分なので、これ以上の言及は控えますが、寅弥を寅弥たらしめているのが、この戦争体験です。

目細の安吉一家は、それぞれ、素晴らしい夜盗の技を身に着けています。

 

✔ 天切り=屋根を破って天井裏から忍び込む、江戸時代からの夜盗の荒業

✔ 中抜き=財布をスル時、財布はそのまま、財布の中身(お札)だけ取るという絶技

✔ 玄の前(げんのまえ)=相手の真正面から財布をスリとる、スリの極地。

 

といったものですが、説教寅こと寅兄ィの仕事は「強盗(タタキ)」です。残念ながら上記にあるような、職人技としての描写はありません。ですが、そこは流石にタダの強盗ではなく、必ず強盗に入った主人に長々と説教をした上で、大金を盗んでいくという一風変わった強盗で、説教寅の2つ名も、ここから付けられています。そのまんまですが。

寅兄ィの見せ場は、何と言っても、その説教なのですが、抜粋するとかなりネタバレになってしまうため、キャラクターを良くあらわすセリフを抜粋します。

「野郎、軍隊の物相飯(もっそうめし)も食ったことのねえおめえが、どの口で物を言いやがる。いいか、松。他人がどうかはしらねえ。俺は俺の気が済むようにしているだけだ。物事のよしあしが数の多寡できまってたまるか。」

「天皇陛下も乃木将軍も終わらせられねえ戦なら、俺っちで始末をつけるほかはあるめえ。」

「・・・どんなやぶれかぶれの世の中だって、人間は畳の上で死ぬもんなんだから。・・・」

「世の中、金でどうにでもなるなんて思っちゃいねえ。だがね、金さえありゃあどうにかはなるもんだ。どうにかなすって下さいまし。こんなことしかできねえてめえが、情けねえ。」

※集英社文庫 天切り松 闇がたり 第五巻 ライムライト 浅田次郎著 P92~128より抜粋

つまるところ、上に馬鹿がつくほど男気のある人間ということです。筆者は、目細の安吉親分や、黄不動の栄治みたいな登場人物が格好良く、好きなキャラクターで、正直、寅兄ィはちょっとだけ愛着が下がります。しかし、本シリーズで思わず泣いてしまうセリフは、寅弥のものが圧倒的に多いのです。説教寅の面目躍如ですね。

 

百面相の書生 常(つね)

冒頭のセリフは、本作の表題作 ライムライトの中で、天切り松のもう一人の兄貴分「百面相の書生 常」こと本田常次郎のモノです。常兄ィは、寅兄ィとともに、やや物語の引き立て役になることが多いのですが、目細の安吉一家の頭脳部分を一手に担っています。

第5巻では既に東京大学の教授となり、帝国ホテル ライト館でホテル暮らしをしていますが、若いころ(1~2巻くらい)では、東京大学の偽学生で、「10年に1人の逸材」と教授達から将来を嘱望される秀才という設定です。

その天才的頭脳ともう一つの才能である「モノマネ」を活かした常兄ィの働きは「騙り(かたり)」。つまり詐欺師です。2ツ名の「百面相」は、頭脳の方ではなく「モノマネの才能」の方から来ています。

また一家の金庫番を努めるのも常兄ィの見過ごせない役割の一つです。目細の安吉一家は、各々が好き勝手に暮らしていますので、とにかくお金がかかります

 

✔ みんな着てるものが大変にオシャレ

✔ 映画大好き、芝居大好き、寅兄ィに至っては博打も大好き

✔ 黄不動の栄治は、かけそば一杯食べるのに1万円くらい出して「釣りはいらねえ」

✔ 食べるものが、ステーキ、うなぎ、西洋料理のフルコース

✔ 目細の親分は、湯治で半月くらい旅行に出かける。なお子分の松蔵も、もちろん付きそう

 

お金かかりますね。加えて、気の毒な人のための助けにと、ちょくちょく自分の財布ごとぽいっとプレゼントしてしまったりします。これ、どれだけ盗んでても足りないですね。これらのお金を用立てているのが、常兄ィです。

天切り松曰く「お金をイジらせれば天才」という常兄ィは、株などの金融商品の利回りで、一家を食べさせ、なおかつ自分は帝国ホテル ライト館でホテル暮らしをしています。わざわざ詐欺をやる必要ないですね。一家に一台「常兄ィ」があると、贅沢三昧で暮らせます。

では何故に常兄ィは「騙り」をやるのか。以下、タイトルのセリフ前後の会話を抜粋します。

「やい、松公。俺ァこれから、一世一代のヤマを踏むと決めた。このお方がバーナード・ショーの旦那におっしゃったこたァ、あんまり有り難くって涙が出る。(本文省略)・・・ピストルの前に見を晒すがよ、万一のときにァあとの始末は頼んだぜ。さあて、天下トリックスター、百面相の書生常の芸がどこまで通用するものやら、段取りは腹ごしらえをしながら考えるとしよう。」

松蔵は思わず闇語りで引き止めた。

「兄貴、ちょいと待っておくんない。この話はどうにもヤバすぎらあ」

(本文省略)・・・・

「待てと言われた盗ッ人の、待ったためしがあるものか。飯にしようぜ」

※集英社文庫 天切り松 闇がたり 第五巻 ライムライト 浅田次郎著 P231より引用

ちょっと伝わりづらいのですが、「この人のためなら体を張って、命を的にヤマを踏む」という義侠心でしょうか。やはり、お金のためではないですね。男気です。俠気

以上、天切り松シリーズが好きすぎて、はやく次の巻が出て欲しいなぁ、というお話でした。

参考 天切り松シリーズの他の記事はこちら↓

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この本を読むならこんな人

✔ チャップリンのファン

✔ ちょっと、辛いことがあった女性

✔ ちょっと、両親とギクシャクしている人

※もちろん、上記以外の人が読んでも面白いです!

 

 

■作品;天切り松 闇がたり 第五巻 ライムライト

■著者;浅田次郎

■刊行;2016年8月

■版元;集英社

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