『お前は正義のために死ねるか』とね
※講談社文庫 ハゲタカ(下) 真山仁著 P406より引用。
バブルの玉が爆ぜる音、諸行無常の響きあり。財務諸表の赤の色、盛者必衰の理をあらは(わ)す。絶えず変化する経済食物連鎖を支配する頂点捕食者は正義か悪か
こんにちは。読書@toiletです。
読書@toiletの読書日記も兼ねて読んだ本の紹介させていただいてます。
■目次
ハゲタカについて
真山仁先生のデビュー作ですね。「ハゲタカ」とは“コンドル(ハゲワシ:鳥)”の方ではなく、倒産した企業を買収するバイアウト・ファンドの総称として使われています。
保険会社や年金基金などを含む、大口の投資家から集めたお金で、企業を買収し、その企業から上がった収益を、利回りとして、お金を出してくれた投資家へ還元します。
倒産寸前の企業を買い取って、非上場化し、しっかり収益が上がるように再生して、再上場し利益を得るものが有名な方法ですね。
本作の舞台は、2000年バブル崩壊により、絶対に倒産しないと言われた銀行が、都市銀行も含めバタバタと倒れていた時代です。責任回避に逃げ回る日系企業の経営者や銀行を手玉にとり、企業買収・不良債権の買い叩きで莫大な利益を上げる、米国系PEファンドや投信銀行にスポットが当たっています。
実在する企業をモチーフに書かれているため、フィクションですが「当時の舞台裏は、たぶんこんな感じだったんだろうな、許せんなぁ」と怒りや残念な感情が湧いてきます。
日本の低成長と国債発行額の多さは、現在に至るまで解決の糸口さえ見えない難題ですが、、その転換点となった「バブル崩壊」という出来事を、非常にリアルに体感でき、またエンタメ小説としても大変に楽しめます。
参考 ちなみに続編「ハゲタカⅡ」についての記事はこちら↓
企業とは誰のものか?
「企業は社会の公器である。したがって企業は社会とともに発展していかなければならない」
とは、経営の神様、松下幸之助(現、パナソニックの創業者)の言葉です。
私はこれを、
「会社とは社会全体の共有財産であって、誰か特定の者の所有物ではない。よって企業は、自分の会社だけが儲かること、個別最適を追求するのではなく、社会全体を広い視野で捉え全体最適を追求すべきである。」
と理解しています。
至言だと思いますね。これは。
企業買収の攻防を描く本作「ハゲタカ」でも、「企業は誰のものなのか?」は、シリーズを通してテーマの一つになっていると思います。
ハゲタカシリーズは、巻数を重ねるごとに買収対象の企業規模が大きくなっていきます。「ハゲタカⅢ」では、遂に国内最大手の自動車会社が対象となりました。
参考 ハゲタカⅢの記事はこちら↓
さらに「ハゲタカⅣ」では、国内を飛び出して、世界経済の中心地であるウォール街を舞台にしています。恐らくこれ以上、大きな規模の企業買収をテーマとすることは不可能でしょう。
参考 ハゲタカⅣの記事はこちら↓
ここで、私もどうようのテーマを考えてみたいと思います。
企業は株主の所有物
株式会社ではない企業には当てはまらないのですが「株式会社は株主のものだ」とする考え方ですね。株式会社において事業に必要な資金を出している株主が、事業の運営を経営者に委ねているという構図です。
企業の所有者として株主には、
(1)最高意思決定機関である、株主総会での提案や議決をする権利
(2)企業が得た利益から配当を得る権利
(3)会社が解散した時に、残った財産を分配して貰う権利
上記3つの権利が与えられています。
最高意思決定機関である、株主総会での提案や議決をする権利:
強力な権限ですね。株式の数さえ集まれば経営陣を総退陣させることも可能です。ただ通常、上場企業の株主総会に発言権を持つほどの株式数を集めるには、莫大な資金が必要になるため、与えられていますが、簡単には使えません。
企業が得た利益から配当を得る権利:
経営者の考え方によりますが、業績と連動することが多いと思います。ただし連動する業績は、取引先への支払いや従業員の人件費・税金を支払った後に配分されるものなので、利益分配の優先順位としては一番低いです。
会社が解散した時に、残った財産を分配して貰う権利:
創業社長が事業展開をしている企業などで見られますが、大企業が財産を残す、つまり事業継続が可能な状態で解散することは殆ど考えられません。やはり権利を使う場面は滅多にないと考えられます。
あくまで私個人の意見ですが、所有者とは、所有物に対して支配的な権限を有している者だと思います。これに対して株主は、お金は出したけど、利益配分は最後。万が一倒産でもすれば、真っ先に損をする。『所有者』としての権利としては、ずいぶん弱いように思います。従って株主=所有者と言われても、それは制度上の論理であり現実的にはピンときません。
企業はステークホルダーの所有物
ステークホルダー=消費者も含めた利害関係者となるため、だいぶ該当範囲が広がります。先に述べた松下幸之助の考え方に近いですね。
ただこの場合も、所有者としての権限は十分ではないように思います。例えば、お菓子メーカーに
「もっと、値段を安くして欲しい」
といった消費者の要望は、なかなか実現しません。
ステークホルダーとは、企業が事業を継続する上で「誰のために事業を行うか?」のターゲットであり、はやり所有者とはならないと思います。
では誰のものなのか?
私は結局、企業の最終的な所有者は「国家である」と思います。
✔ 事業のルールを定めることが出来る。
✔ 合併や統合など、事業継続に重要な決定を覆すことが出来る
✔ 潰してはいけないと判断した企業(例えば銀行)は、税金を投入してでも救済することが出来る。
✔ 課税することが出来る
当たり前ですが、主権の及ぶ範囲内で、自国企業に対して支配的な権限を持っています。ということで、企業は国家の所有物という、「わかってるわ!」という結論になりました。つまり、「企業は誰のものか?」は、私にとってどうでもいいこと、、、というお話でした。
追記:2018年7月にテレビ朝日の木曜日21時枠、綾野剛さん主演でドラマ「ハゲタカ」が始まりますね!綾野剛さんが、どんな鷲巣政彦を演じるのか、大変に楽しみです。
参考 ハゲタカシリーズ 他の記事はこちら↓
この本を読むなら、こんな人
✔ 金融に興味のある人
✔ 海外で働いてみたい人(特にアメリカ東海岸)
✔ 金儲けが上手くなりたい人
✔ 世界で一番、金儲けが上手くなった気になりたい人。
※もちろん、上記以外の方が読んでも面白いです。
■作品;「ハゲタカ(上・下)」
■著者;真山仁
■種類;経済小説
■刊行;2006年3月
■版元;講談社文庫