東芝 粉飾の原点ー内部告発者が暴いた闇ー

予想しなかった回答で動揺し、筆者は思わずこう聞き返していた。

「間違いない?」

「間違いありません」

東芝の”パンドラの箱”が空いた瞬間だった。

※日経BP社 東芝 粉飾の原点 小笠原啓 著 P14より引用

こんにちは。読書@toiletです。

読書@toiletの読書日記も兼ねて読んだ本の紹介させていただいてます。

東芝 粉飾の原点

本書は2015年~2016年まで、東芝の「不適切会計」について、日経BP社による取材経緯がまとめられ書籍です。

筆者もネットニュースで見て衝撃を受けたので、よく記憶に残っていますが、2016年末、経済界に激震が走りました。

2006年に6,000億円という巨費を投じて買収した、原発関連事業会社、米国ウェスティングハウスで、数千億円規模の損失が発生する

といった報道でした。このウェスティングハウスの減損金額は、日を追うごとに際限なく膨らんでいき、数千億円?→5,000億円→7,000億円と留まるところを知りませんでした。あの名門中の名門企業である東芝が、このままでは債務超過に陥り、監査法人と見解の対立により2017年3月期の決算が発表できない自体に追い込まれていきました

最終的に、大幅に発表を遅らせた、2017年8月10日、2017年3月期の最終決算が9,656億円の赤字、更に有価証券報告書の監査意見については、「適正」ではなく「限定付き適正」という聞き慣れない意見をつけての発表。この内、上記のウェスティングハウスに関わる減損は第3四半期で7,166億円を計上しています。

東芝は、この損失を受け債務超過に陥り、東証一部→東証二部へ変更となり、財務強化のため、連結利益の殆どを稼ぎ出し、今後の成長も大変有力な半導体事業を売却することになりました。

一連の騒動はマスコミの大きな注目を浴びましたが、本書では、名門中の名門企業、東芝凋落の原因となった、不適切会計の原点を、東芝社員へのインタビュー取材を交えながら、生々しく暴いていきます。

残念ながら、2015年~2016年前半までの取材期間となるため、最も注目された2017年3月期の決算発表に至る経緯は、期間外で収録されていませんが、それでも東芝社内でどのように損失が隠蔽されてきたのか?は、よく分かる貴重な資料だと思います。

名門中の名門

東芝の不適切会計~巨額損失の計上~債務超過~半導体事業売却について、報道される際、

「あの名門企業:東芝が~」

と、枕詞のようにつけられた「名門」。筆者は、いや名門名門って、何をもっての「名門企業」なの?と疑問に感じていました。

以前「ハゲタカⅡバイアウト」の記事で、名門企業についての考察を書きましたが、今回は違う意味で、「何をもって名門としているのか?」を考えてみたいと思います。

参考 ハゲタカⅡ バイアウトの記事はコチラ↓

「名門企業」とは、数少ない宝箱を携える選ばれし者か、開けてはならないパンドラの箱を抱えた妖怪か 読書日記です。真山仁:ハゲタカⅡの感想を書いています。

歴史的な観点:

「名門」と呼ばれるには不可欠な要素、それが歴史ですね。学校やホテルなど「名門〇〇」と呼ばれるものは多いですが、必ずそれなりの歴史を持っています。東芝ももちろん歴史ある企業なのは周知の事実ですが、ランキングにするとどれくらいなのか?

ちょうど、東洋経済オンラインで2015年11月に「荒波を乗り越えた『老舗企業』ランキング200」という記事がありました。これは有価証券報告書を元に、上場企業の設立を古い順に集計しトップ200としたものです。設立=株式会社として登記した年月日となるため、「創業」とは異なりますが、上場企業を網羅的に見るためには、設立でも良いと思います。

参考 東洋経済:荒波を乗り越えた「老舗企業」ランキング200

https://toyokeizai.net/articles/-/93602

この記事によると、東芝の設立は1904年06月、上場企業全体の中で53位です。トップクラスの老舗企業であることは間違いありませんが、この一事をもって「名門」とするには、やや根拠が薄いように思います。

事業規模:

次に社会的な影響力を検証しています。ここでは社会的影響力=事業規模として、売上規模を見てみたいと思います。

これは調べるのは簡単です。日経新聞が公表しています。下記2018年1月22日時点のデータでは、東芝の売上高:4兆8,707億円となり、上場企業中17位でした。一連の不祥事が起こる前、例えば、2014年度(2015年3月期)の東芝の連結売上高:6兆6,559億円となり、上記のランキングデータに当てはめると、13位となります。

十分に日本のトップクラスの大企業と言えます。上場企業中で有数の老舗であり、今なお事業規模でもトップクラスにある企業=東芝となります。

財界活動:

もう一つ、財界活動の面からも見てみます。東芝=名門企業という報道の中で、「日本経団連会長を排出した」という記述が見られるからです。経団連のHPに歴代の会長が記載されていますが、

参考 一般財団法人 日本経済団体連合会

http://www.keidanren.or.jp/profile/rekidai.html

東芝は

✔ 第2代会長=石坂泰三(1956年2月21日~1968年5月24日)

✔ 第4代会長=土光敏夫(1974年5月24日~1980年5月23日)

の2人を排出しています。2018年現在は14代目の会長:日立製作所の中西会長が努めていらっしゃいますが、そもそも会長を排出した企業自体が9社しかなく、2回以上の企業では、東芝・新日鉄・トヨタの3社のみです。

どうも名門中の名門と言われる所以は、この日本経団連会長を二人排出していることのウエイトが高そうです。

粉飾決算

冒頭でも触れましたが、東芝の財務が大変に傷んでしまった原因は、原子力事業の目玉で2006年に買収したウェスティングハウスの減損によるところが大きいです。

東芝は2009年の東日本大震災以降、世界的に原子力発電の需要が落ち込む中、頑なに「ウェスティングハウスの業績は順調であり、減損の必要はない」としてきました。

その方針を転換したのが明らかになったのが、本書の著者を含む日経ビジネス取材班のスクープによるものでした。

繰り返しになりますが、本書にまとめられている内容は、2015年~2016年となるため、網川社長に交代してからの、2016年度の決算を巡る攻防は抜けています。

ただ、東芝が不適切会計に走った(走らざるを得なかった)原因である、上層部からのプレッシャーがいかに大変なものだったのかが、非常に生々しく書かれています。上層部から到底達成が困難な目標を押し付けられ、「チャレンジ」という御旗のもと、罵倒され不正を強要された様子です。

ここで再び考えなければいけないのは、「上層部」とは誰なのか?ということです。報道でやり玉に上がっていた、「西田社長」「佐々木社長」「田中社長」の3社長なのでしょうか。

筆者は違うと思います。東芝という巨大企業のトップまで上り詰める人間です。「まったく資質がない、ただのちゃらんぽらん、もしくはパワハラ男」のはずはなく、一般と比較すればずば抜けた頭脳を持ち、周囲から尊敬される人格の持ち主だったと考えるのが自然でしょう。やはり上記の3社長も「何かからの強烈なプレッシャー」を受けていたと考えるべきです

その「何か」とは、なんなのか。この肝心な部分が筆者にはわかりませんが、ひょっとすると「名門」という姿の見えない幽霊なのかもしれません。

以上、名門企業はうらやましいけど、それはそれで大変そうだな、というお話でした。

■作品;東芝 粉飾の原点ー内部告発が暴いた闇ー

■著者;小笠原 啓

■種類;ビジネス書

■刊行;2016年7月

■版元;日経BP社

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