「穏やかな時間が長く続くことに、人間は耐えられない。集団はそのうち、『何か面白いことはないのか』と嘆きはじめる」

「穏やかな時間が長く続くことに、人間は耐えられない。集団はそのうち、『何か面白いことはないのか』と嘆きはじめる」

※文春文庫 死神の浮力 伊坂幸太郎著 P440より引用

人間としての感情を持たない死神はとサイコパスの違いは、敬意の有無。

こんにちは。読書@toiletです。

読書@toiletの読書日記も兼ねて読んだ本の紹介させていただいてます。

死神の浮力

本作は伊坂幸太郎先生の長編小説です。また本作より以前には、同様に死神「千葉」を主人公にした短編集「死神の精度」があります。

参考 死神の精度の記事はこちら↓

誰もが必ず当てることが出来る予言「絶対に死ぬ」。人間にとって重大な事実も、死神にとっては仕事の一部。事物の価値はユーザーによって全く異なる。伊坂幸太郎 死神の精度の感想を書いています。

前作の紹介でも書きましたが、死神には「死」がついて回るため、扱う題材としては、やや重いものとなります。今回の「死神の浮力」では、「子供を亡くした両親」を主要人物としてストーリーが進行するため、物語の悲惨さは前作の比ではありません

しかし、こんな登場人物を軸にしても、暗さ一辺倒にならないのが、伊坂マジック。さすがに前作のような清々しいとまではいきませんが、決して気分が落ち込むような読後感はなく、だからといって軽薄な印象もありません。

感情のブレンド

筆者が思うに、伊坂幸太郎という作家は、感情のブレンドの達人です。人間の感情をあらわす言葉で「喜怒哀楽」があります。喜び、怒り、哀しみ、楽しむ、となりますが、人間の感情はそんなに単純ではありません。困ることもあれば、驚くこともありますし、愛おしい、虚しいといった感情もあります。更に、私達はこれらの感情が入り混じりなが、日常を過ごしています。

✔ 驚きながら楽しむ

✔ 困りつつ喜ぶ

✔ 怒りながら笑う

といった具合です。

これを筆者は感情のブレンドと呼ぶことにしています。このブレンドの割合を間違えると、小説は何とも不快なものになったり、ただただ悲しい、もしくはグロテスクな形になったりします。本作に関しては、ほぼ全編を通して、登場人物の感情に「楽しみ」の感情が、絶妙の割合でブレンドされています。それが冒頭で述べたように、深刻な題材とは裏腹に、軽薄ではなく軽やかな気分を生んでいます。

死神「千葉」というキャラクター

「楽しみ」の感情をブレンドするキーキャラクターとして、本作の主人公である死神「千葉」がいます。前作「死神の精度」の記事でも書いたように、死神「千葉」は、人間を超越しているわけではありまえんが、人間とは次元のズレた存在として描かれています。平たく言うと、完全に「天然ボケ」というキャラクターです。以下、何かの拍子に開けると爆発する車のドアを、そうとは知らずに(ただし死神「千葉」は気がついている)開けようとしている本編のシーンを引用します。

「千葉さん、逃げるんですか」山野辺は、私の動きを敏感に捉えた。同時に、鍵を落とした。あ、と呻き、しゃがみ、拾っている。

「逃げるわけではないんだが」

「じゃあ、轟さんを引っ張り出すのを手伝ってください。今、ドアを開けます」

「そうだな。まあ、爆発が起きた後で、落ち着いてから手伝おうと思ってな」

「はい?」

※文春文庫 死神の浮力 伊坂幸太郎著 P192~193より抜粋

死神は、人間の死を扱いますが、美容師が髪の毛が切られて可哀想と思わないように、人間に起こる不幸に対して興味がありません。従って上記のような、ズレたやりとりが発生するのですが、まあ天然ボケですね。シリアスなシーンの随所に、このような千葉のコミカルな言動が交じるため、大変楽しく読み進めることができます。

参考 死神シリーズの名言をまとめた記事はこちら↓

伊坂幸太郎:「死神の精度」「死神の浮力」で印象に残るフレーズをまとめています。

25人に1人がサイコパス

タイトルのセリフは、死神「千葉」が、ふとした拍子に参勤交代の意義について語る場面で、投げかけられるセリフです。千葉曰く、人間は争いよりも「退屈」を嫌うそうです。なので端的に言うと、平和な期間が続くと「退屈」になり、戦争を始めるとのこと。なお、参勤交代の意義は、その人間が嫌う「退屈」を起こさないということだけでも、十分に発揮されているという主張でした。

全く話が変わってしまいますが、作中にサイコパスと呼ばれる人物が登場します。その人物は自分以外の者に対する感情(良心)が欠落した人間として描かれおり、普通の人間だと出来ないような残酷な行為、良心の呵責に苛まれるような裏切りを平然とやってのけます。また非常に優秀な頭脳の持ち主で、良心が完全に欠如しているため躊躇することが全くなく、嘘や欲望を刺激して、いとも簡単に他者を操ります。

(注)巻末に著者が、下記の断わりを入れており、25人に1人という割合やサイコパスの定義は創作とのこと。

サイコパスについての情報は各資料をもとにしているものの、「二五人に一人」といった数字や「サイコパス」の定義について、資料ごとに異なっており、このお話の中での記述は、あくまでも物語に合うように僕が作り上げたものです。

※文春文庫 死神の浮力 伊坂幸太郎著 参考・引用文献ページより引用

このサイコパスは、作中のイメージ通りだと仮定すると、常に争いごとを起こす側の人間となります。死神「千葉」の「退屈が争い事を起こす」論に当てはめて考えると、人間全体を巨視的な視点で見た時、争いごとの発火装置と見ることも出来ます。つまり人間全体が退屈しないための刺激物という位置づけです。

ちょっと支離滅裂で分かりにくい話になってしまいました。取り敢えず、サイコパスは怖いから絶対に嫌だけど、死神「千葉」とは会ってみたい。ただし、まだ死にたくない。というお話でした。

この本を読むならこんな人

✔ 死神の精度を読んだ人

✔ やや引きこもり気味な人

✔ 事件記者の人

✔ 学校や職場など周囲にサイコパスかも知れないと思い当たる人がいる人 

※もちろん、上記以外の人が読んでも面白いです!

■作品;死神の浮力

■著者;伊坂幸太郎

■刊行;2016年7月

■版元;文藝春秋

フォローする