羽生善治:「大局観」を読んだ感想と、日常で大局観が使えるか?を考えてみた。

むしろ、リスクを取らないことが最大のリスクだと私は思っている。

※角川oneテーマ21 大局観 自分と闘って負けない心 羽生善治著 P34より引用

天才の中の天才が観る景色。天才棋士 羽生善治 2011年時点の視界。

こんにちは。読書@toiletです。

読書@toiletの読書日記も兼ねて読んだ本の紹介させていただいてます。

大局観 自分と闘って負けない心

本書は、将棋のプロ棋士 羽生善治さんによって書かれた新書です。「永世七冠 羽生善治」や「決断力」の記事でも少し触れましたが、筆者は羽生善治さんのファンです。

参考 「永世七冠 羽生善治の記事」「決断力」はこちら↓

頂点に立つ者の中でも、更に選ばれたものだけが名乗ることを許される「史上最強」。前人未到の永世七冠を獲得した、羽生善治の奇跡の軌跡。永世七冠 羽生善治を読んだ感想を書いています。
全てを手に入れたように見える天才棋士。まばゆいスポットライトを浴びる中で、考えていたこと。羽生善治著 決断力の感想です。

過去は盛大な寝癖を直すことなく対局に臨む姿が、いかにも将棋以外が眼中にない天才らしい一面として盛んに報道されていましたね。現在では将棋界の第一人者、また伝統文化の一翼を担う文化人として、常に物事の本質を捉えた発言は、様々な示唆に富んでいます。

2018年5月時点で、タイトル獲得数99期(歴代1位)、公式戦勝ち星1,401勝(歴代2位)と圧倒的な実績を誇る天才棋士は、将棋以外の物事をどうのように捉え、何を考えているのでしょうか?本書はその一端が垣間見える内容となっています。

大局観とは:

まずは本書の書名にもなっている「大局観」についてです。将棋とは相手の手を読むことで、勝ちに結びつけるゲームです。この「読み」が正確な方が、より勝ちやすいゲームなのですが、「大局観」とは「読み」とは反対の性質の能力です。大局観の重要度は、以下の将棋というゲームの特徴を考えるとよくわかります。

二人零和有限確定完全情報ゲーム

将棋とは経済学で使用されるゲーム理論では「二人零和有限確定完全情報ゲーム」に分類されます。囲碁やオセロ、五目並べなども、同じ分類にあたります。漢字ばかりで難しそうですが、部分的に分解していくと簡単に理解できます。

二人零和

これは2人で行うゲームで、二人の指し手の価値を合わせるとゼロになることを指しています。ちょっと意訳し過ぎかもしれませんが、どちらかが勝てば、どちらかが負けるので、差し引き0と考えると理解しやすいかも知れません。大してパチンコなどのギャンプルでは、3千円の投資で10万円勝つことも可能なため、合計が0にはなりません。

有限

将棋にはルールがあるので、全体で指せる手には限りがあるということです。

確定完全情報

将棋は全ての駒が自分と相手にさらされている状態になり、不明な情報が一つもない状態です。カードゲームのポーカーなどは、相手の手札が不明、ディーラーが配るカードも不明なため、この分類にはあたりません。

つまり将棋は理論上、偶然の要素が一切なく、コンピューターを使用した解析が可能で、全てのパターンを分析し必勝を導くことが出来るゲームとなります。

将棋のパターンは「10の220乗通り」と言われている:

将棋のルールをご存知の方や実際に指したこともある方には、釈迦に説法ですが、将棋の最大の特徴は「取った相手の駒を自分の駒として使用できる」という部分です。このルールにより、将棋のゲームを進めるパターンは飛躍的に大きな数となります。その数は、まだ多すぎてハッキリとしていません。定説としては、10の220乗通り程度とされています。これは、全宇宙に存在する原子の数を超えるのでは?とも言われています。

つまり理論上は、将棋の全ての手を解析することは可能でも、数が多すぎて実現不可能となります。

読まないで感じる力が「大局観」:

ということで、将棋において何でもかんでも「読み切る」ということは不可能です。そこで羽生善治さんは、これまでの経験値を活かした「読まなくても局面を見ただけで、『良い手』を見つける力」=大局観とし、読みの力で自身を上回る若い世代に対抗する重要な能力と位置づけています。そりゃそうですね。時間をかけて「読み」を入れなくても、何となく「良さそう」で同様の手を見つけることができれば、圧倒的に効率的です。

筆者は「大局観=洗練された勘(感覚)」と認識しています。

日常の仕事においても使える大局観:

この大局観は将棋だけに限定されるものではありません。ビジネスにおいても大局観が磨かれるとその生産性は、もの凄く上がると思います。例えばソフトバンクの孫正義さん。数々の成功に満足すること無く、常に攻めの経営を続ける名経営者ですが、早くから有力企業へ多額の投資を行い、莫大なリターンを得る投資家の一面もありますね。パズドラのガンホー、中国企業のアリババなどは記憶に新しくインパクトがあります。これも言ってしまえば、大局観のなせる技です。

話が大きくなりすぎましたが、筆者も若い頃は分からなかなった、トラブルを未然に察知する、提案書をひと目でうまくいきそうか、難しそうかが何となく分かる、といったことが増えてきました。これも大局観と言えば大局観です。

年の功・長年の勘、みたいな何となく非科学的で軽視されがちですが、「大局観」として言葉に定着させ、能力の一つとして認知し、これを磨く努力をすれば、年齢を重ねても若い人に負けることのない、いやむしろ圧倒的に上回る生産性を発揮できるかもしれません。

平たく言えば、勘は最強の能力と言えます。

リスクを取らないことが、最大のリスク

本書では、将棋という勝負事を軸に、

✔ 大局観について

✔ 集中力について

✔ 負けるということについて

✔ 運・不運について

羽生善治さんがどのように捉え、考え、取り組んでいるかが書かれていますが、その中で最も印象に残ったのは、本記事の冒頭で取り上げている「リスクを取らないことが、最大のリスク」という言葉です。

筆者は羽生善治さんの将棋が好きで、過去の大きな対局は、かなりチェックしています。将棋の対局はどれも重要ですが、例えば大きなタイトルがかかった、とりわけ重要な一局で、羽生善治さんは「うわっ、こんな危ない手指すの?これで負けたら敗着じゃん」みたいな手を平然と指すことがあります。その結果、華麗に勝つこともあれば、失敗して結構無残に負けることもあります。羽生善治さんは何を考えて、このような姿勢を貫いているか、すなわち「リスク」というものへの考え方を以下のように述べています。

たとえば、私はこれまで自分自身の性格を分析して、「リスクを負うことを厭わず、自ら危険なところに踏み込んでいくタイプだ」と公言してきた。

たくさんの対局を経験していくと、「手堅く安全に行こう」という気持ちが、どうしても自分のなかで習慣化してしまいがちなので、それを戒める意味でも、あえて意欲的で挑戦的なことを言って、前向きな姿勢を示しているのである。

自動車の運転にたとえると、無意識のうちにブレーキをかけていることが多くなっているので、意識的にアクセルを踏み込むようにしているわけだ。

経験を積んだら、それでやっとバランスがとれて、スピードを出しつつも周囲の景色を楽しむ余裕ができる。自分では、このくらいが理想のリスクのとり方ではないかと思っている。

※角川oneテーマ21 大局観 自分と闘って負けない心 羽生善治著 P41より抜粋

経験値が上がるにつれて、リスクを無意識に回避してします。無意識のリスク回避を防ぐために意識的にアクセルを踏み込むくらいで、ちょうどバランスが取れる。これを車の運転に例えて、周囲の景色が見えなくなるほどスピードを出すのでは、事故を起こし取り返しがつかなくなるので、周囲の景色を楽しむ余裕が残るギリギリのラインのスピードを出していくのが、理想のリスクコントロールということですね。

通常、ビジネスにおいてリスクコントロールは、失敗やアクシデントを如何に防ぐか?に焦点を当てるものですが、羽生善治さんは失敗することも視野にいれて、それでも取り返しがつく範囲内で収まる程度のリスクを取る、と主張しています。ここが、新しいところです。

正直、その見極めが非常に難しいのですが。。。

ただ、羽生善治さんの対局は、ハラハラ、ドキドキしながら最後の収束は感動で終わることが多いように思います。その秘密はこの辺りにありそうですね。

以上、リスクを取らないことは最大のリスクだが、無謀なリスクテイクは破滅が待っているので気をつけよう、というお話でした。

■書名;「大局観 自分と戦って負けない心」

■著者;羽生善治

■刊行;2011年2月

■版元;角川書店

フォローする