清武英利:「しんがり 山一證券 最後の12人」を読んだ感想と、働くことについて考えてみた。

ーーたぶん、会社という組織には馬鹿な人間も必要なのだ。

※講談社 しんがり 山一證券 最後の12人 清武英利著 P267より引用。

損な役回りはできれば避けたい。得にならない仕事はなるべくしたくない。しかし、損な役回りも、特にならない仕事も存在する以上、誰かがやらなければならない。仕事とは、働くとは一体なんなのか。

こんにちは。読書@toiletです。

読書@toiletの読書日記も兼ねて読んだ本の紹介させていただいてます。

しんがり 山一證券 最後の12人

本作は、元読売新聞社会部のエース記者にして、読売巨人軍のGM(ゼネラルマネージャー)、現ジャーナリストの清武英利さんが、実話を元にして書いたノンフィクションです。

WOWOWで江口洋介さん主演でドラマ化されたため、映像作品でご覧になった方もいるかもしれませんね。

1997年11月に破綻した山一證券の書籍は、何冊も刊行されていますが、精算業務についた社員にスポットを当てたが本作の特徴です。孫正義、スティーブ・ジョブス、ビル・ゲイツ、ウォーレン・バフェットなど、勝者に関する書籍は数多くありますが、倒産した企業の精算業務という、勝者とは言い難い方々を描いた書籍は、あまり見かけません。

書名「しんがり」の意味は、戦争で味方が敗走する際に、最後尾で敵の追撃を食い止めながら、本隊の退却を可能にする役割です。本隊が退却しているため、味方の援軍が一切望めず、死傷する可能性が最も高いと考えられます。敗者ではあるかもしれないが、称えるべき勇敢な方々への著者の敬意が、書名からも感じ取れます。筆者も、負け戦に身命を賭す、その責任感・使命感に感動を覚えました。

企業が倒産するとは、倒産した企業を精算するとは、どのようなものか?それが知れるだけでも、大変に勉強になる一冊です。

以下、本書に出てきた内容で、筆者がよく分からなかった、よく知らなかった事もあったので、備忘録として調べて記載しておきます。

山一證券:

有名な企業なので、ご存知の方も多いかと思いますが、野村證券・大和証券・日興證券・山一證券の4社で、日本の4大證券といわれる、大規模な証券会社でした。バブル崩壊までは、「銀行・証券は潰れない」不倒神話があったほど、安定企業のシンボルだったので、経営破綻した北海道拓殖銀行や日本長期信用銀行と共に、バブル崩壊のシンボルにもなっている感があります。

芙蓉グループ:

本書にも再三登場しますが「法人の山一」と言われたようで、個人顧客への証券販売よりも、大企業との取引を得意としていたようです。芙蓉グループという旧財閥系と富士銀行(現みずほ銀行)の融資先企業らで出来た企業集団に属していたので、芙蓉グループ企業のファイナンスも担当していたのかもしれませんね。芙蓉グループの企業は日産自動車やニチレイ、キャノン、サッポロビール、丸紅など超有名企業があります。もちろん芙蓉グループ以外の大企業も数多く担当していたと思いますが。

営業特金:

本書を読むまで、全く知りませんでしたが、「営業特金」という証券用語があるそうです。大企業から、巨額の資金を「運用はお任せ」と丸投げで預けてもらうことを指すそうで、「営業特金」を獲得できた証券会社の営業マンは表彰ものだったようです。ただし色々な問題が起きたので、現在は証券取引法で規制されており、証券会社とこのような契約は結べなくなりました。

先日、記事としてアップした「野村證券 第2事業法人部」でも書いたとおり、当時の証券マンのノルマは大変に厳しく(現在も大変に厳しいような話も聞きますが、真偽は不明です)山一證券も同様だった様子が本書からわかります。

参考 「野村證券 第2事業法人部」の記事はこちら↓

「野村證券 第2事業法人部」の感想です。

粉飾決算:

大企業が世間を騒がせるのは、この「粉飾決算」が多いように思います。企業活動の1年の成績発表である「決算」で嘘をつくことで、犯罪です。上記で紹介した「野村證券 第2事業法人部」の著者である横尾氏が関与の疑いをかけられている(本人は否定)オリンパス事件も、この粉飾決算でした。

ニギリ(利回り保証):

山一證券が決算をごまかさなくてはならないほどの損失を抱えた原因が、このニギリでした。ニギリとは、先述した営業特金とセットで行われることが多いようで、禁止されている「利回り保証」のことを言います。

つまり

「御社の資金10億円を何も言わずに預けてもらえませんか?弊社で運用して10億8000万円にして、来年にお返ししますので!」

という取引になります。この場合、何もしなくても証券会社に預けておけば、差し引き8,000万円の利益が出ますので、大企業側も大変助かる約束となります。これはバブル期のように、株価や土地などの証券や投資案件が、どんどん値上がりしていれば成功します。

証券会社は「必要があるか、ないのか」は別として、顧客の証券を勝手に売買することで(何も言わない約束ですから)手数料収入が入りますし、証券会社が得た手数料以上に証券が値上がりすれば顧客にも利益として返すことが出来ますね。

ただ証券会社が運用している証券が値下がりしてしまった場合は、10億円の証券が9億5,000万円になってしまった場合は大変です。差し引き5,000万円の損が出ますので、当然顧客と揉めることになります。この際、禁止されている取引をしている証券会社は立場が弱いため、この損失を被ることになります。

そしてこの損失は、「なんで損が出たのか?」が、禁止されている取引によって発生しているため、表沙汰に出来ません。「なぜか損が出ました。。。」とは言えませんので。なので損をしなかったことにする=決算で嘘をつくことになります。これが粉飾決算の原因にようです。

飛ばし:

山一證券が粉飾決算を余儀なくされた理由はわかりましたが、次は「どうやって粉飾決算をしたのか?」です。方法は「飛ばし」が使われました。まぁ粉飾決算で問題になる場合は、「飛ばし」がかなり多いと思いますが。

決算とは年に1回(上場企業は3ヶ月に1回)ある期間の企業成績を計算したものを指します。例えば3月が決算期の会社ですと、3月31日時点で、それまでの1年間(4月1日~3月31日)まで商売をした結果、いくら儲かったのか?またはいくら損したのか?を計算します。この時に途中経過(5月とか7月とか)は問われません。なので通年で4月~2月までは赤字でも、3月でそれまでの赤字を相殺して、まだ余るくらいの利益をだせば、黒字の会社となります。

これを利用すると決算書をごまかすことができますね。例えば、10億円の証券が2月時点で、9億5,000円まで値下がりしていた場合、2月のタイミングで別の会社へ10億円で売却します。すると3月時点では5,000万円の損は発生していないことになります。そして決算期が過ぎた4月に、また10億円で買い戻します。これが筆者が認識している「飛ばし」のスキームとなります。また「飛ばし」を行う際は、赤字の証券を売却する先を予め用意したペーパーカンパニーにしたり、買い戻す際にプレミアムをのせる(10億円で売却したものを10億5,000万円で買い戻す)などの方法が取られるようです。山一證券の場合も、本書では、これが負債が雪だるま式に膨らんで破綻の原因になったとされています。

働くということは、自己表現である

筆者はあまり金融について興味がなく、山一證券といえば有名な「社員は悪くありませんから!悪いのは我々ですか!」という記者会見くらいしか知りませんでした。本書は山一證券の顛末を知る上でも、大変に勉強になりました。

粉飾決算をしていたのは、経営陣であり記者会見での社長の叫びも、まぁ当然のことと認識していましたが、社長は倒産の4月前に交代したばかりであり、社長に就任するまでは、この簿外債務(飛ばしによって隠されていた損失)については知らなかったそうです。

また本書の主人公である「12人のしんがり」には、重役である常務取締役も含まれますが、当然ながら、全員が簿外債務については知りませんでした。つまり、破綻当時の社長やしんがりに登場する常務取締役については、出世したばかりに自分がやったことではない罪を被らされたことになります。(損害賠償訴訟を起こされて和解金を支払っています)

会社員である限り、やはり出世を目指すのが一般的かと思いますが、これを読むと怖くなりますね。自分は一切関わりのないことでも、会社が不正を働いていれば罪に問われてしまいます。まぁ会社で出世すれば、、、、の話であるので、筆者はあまり深刻に考える必要はなないのですが。。。

本記事の冒頭で紹介している文章は、12人のしんがりの大将を務めた常務取締役の胸中です。自分は不正をしていないにも関わらず、責任を問われ、あげく精算業務と不正に関する調査の責任者となり、自分の再就職活動もままならない。一番の貧乏くじを引いた人だと思います。

ただ、誰かがやらなければならない仕事を、損を承知で、馬鹿のフリをして引き受けた、この常務取締役は大変に立派な方ですね。

筆者は本書を読んで考えたことは、「働く」ということは、お金を儲けることでも、名声をえる目的でもなく、自分を表現することなのではないかと思いました。山一證券の最後の12人も、最後まで残ることで、生き方なり、何かを表現できたのではないでしょうか。芸術家でなくても作家でなくても、サラリーマンでも、働くことで「自分がどんな人間か」を表現することが出来る。また表現しなければ仕事は面白くないのだと感じます。

以上、給料が安くても気にすることはないさ!というお話でした。

■作品;「しんがり 山一證券 最後の12人」

■著者;清武英利

■種類;ノンフィクション

■刊行;2013年11月

■版元;講談社

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