山田宗樹:「百年法」を読んだ感想と、もし不老社会が実現したら、どうなるか?について考えてみた。

諸君、私はこう思う。大きな責任をともなう決断を迫られたときは、感情論や精神論、希望的観測を可能な限り排して臨むのが、正当な対し方だと。

角川書店 百年法(下) 山田宗樹著 P362より引用

こんにちは。読書@toiletです。

読書@toiletの読書日記も兼ねて読んだ本の紹介させていただいてます。

百年法

本作は山田宗樹先生、初のSF巨編です。山田宗樹先生は「嫌われ松子の一生」が大ベストセラーとなり、中谷美紀さん主演で映画化され、内山理名さん主演でテレビドラマ化もされたので、ご存知の方も多いかと思います。

本作はSF巨編と書いた通り、日本とよく似た国、日本共和国を舞台としたサイエンス・フィクションです。日本共和国をはじめ「百年法」に登場する先進国では、なんと『人間の不老化技術』が確立されており、「不老化施術」を受けたほとんどの人間が歳をとりません。あくまで不老であって不死ではなく、病気や事故で死ぬことはあります。しかし、若いままの肉体を保つことが出来るため、ガンや脳梗塞など加齢とともに発症しやすくなる病気は激減するため、多くの人間が飛躍的のその寿命を伸ばすことになりました。それでは、社会の新陳代謝が進まないため、不老化施術を受けてから100年後に安楽死を選ばなければならない、と法律で定められており、その法律が書名の「百年法」ということです。

本書の興味深いところは、人間が夢見る「不老」を実現した社会で生きる人間は、どのような生活を送っているのか?またそのような人間が形成する社会はどのようなものなのか?どのような問題をはらんでいるのか?その問題にどのように対処していくのか?が、非常に精緻にシミュレートされているです。その深い洞察は驚嘆に値します。もちろん不老化した社会など、人間以外も含めた地球上の生態系に存在したいため、著者の思考実験により生み出されたストーリーだと思いますが、「不老社会」が実現した場合、ある程度、本書のシナリオと同じようになるのでは?と考えてしまいます。

それほど、老いや死、生きるということ、人間そのものに対した深い考察が伺えます。作家という人種は、みんな天才なのではないでしょうか。

不老社会

本書にも色々と不老社会の実情がシミュレートして描かれていますが、筆者も少し考えてみたので、「もし、誰もが歳をとらなくなった世界があったとした、どんな世界か?」を書いてみたいと思います。

圧倒的な格差社会

これは本書にも触れられているのですが、現在とは比べ物にならないほど格差が広がると考えられます。現在の日本でも格差の広がりが指摘されていますが、それでも相続税や贈与税という富の再分配のシステムにより、資産家が亡くなることによって、ある程度、富のリセットが起こる仕組みが機能しています。ところが、資産家が亡くならない社会では、資産家は、よほどの失敗をしない限り、永遠に資産を増やし続け、その運用経験から更に効率的な運用方法を導き出し、まさに金持ち無双の状態が続くことになります。ここに逆転の余地はなかなか生まれません。ついでに、遺産目当ての不自然な婚姻関係や事件もなくなるでしょう。従って、現在よりも飛躍的に格差は広がり、かつ硬直化するものと思われます。

TV番組や映画などのエンタメは金太郎飴に

比較的容易に想像できますが、TV番組に代表される娯楽ものは、完全に金太郎飴状態になると考えられます。誰もが「歳を取らない」となると、芸能人・タレントは全員が若い人ばかりになります。どのチャンネルをつけても、代わり映えのしない画面ばかりになり、ドラマや映画・小説のテーマは、若者向けの恋愛モノが溢れかえることになるかと。ファッション誌に至っては、「原宿系」「表参道系」「渋谷系」「丸の内系」など、何が違うのか分からないほど細分化され、ページ数が維持できないため、3ヶ月に一回程度の季刊誌になるか、ページ数が少ない月刊誌が乱立することになると考えられます。

決定的な弱みを握られたら地獄

先に述べた「圧倒的な格差社会」と通じる部分がありますが、半永久的に若さを保てるということは、富の偏りとともに、権力の硬直化も起こると考えられます。まぁ、人生を左右するような弱みを握られる・・・といったことはあまりないと思いますが、そのような弱みを握られたとしても、相手が亡くなることで、ある程度リセットされることが期待できました。しかし、不老社会にリセットはありません。一度、弱みを握られてしまえば、半永久的にその相手に頭が上がらなくなります。

スーパー人間国宝の誕生

伝統芸能や職人技など、技術の習得と研鑽に長い時間をかけても、才能のある一部の人間しか到達できないような技能があります。このような「名人」と呼ばれる技術を身に着けても、その名人が亡くなることで、世界からは失われてしまいました。しかし、不老社会では、そのような損失は最小限となります。人間国宝と認められるまで昇華した技術や芸を、更に高めるだけの時間が与えられます。従って、どんなものかはわかりませんが、人間国宝を超えるスーパー人間国宝の誕生も想定されます。

スポーツ界は、毎日 オールスター戦

スポーツ界に至っては、とんでもない競争社会となります。年齢による新陳代謝がもっとも活発なのがスポーツ界だからです。10年に一人と言われるスーパースターが、まったく歳を取らずにそのパフォーマンスを維持している世界が不老社会です。最終的には時空を超えたオールスター戦が毎試合、様々なスポーツで見られるようになるでしょう。観客としては喜ばしいことですが、チケットや放映権料などは大変に高騰することが予想されます。スポーツは富裕層だけが楽しめるものになる可能性が高いと考えられます。

大学や専門学校は大繁盛

不老社会では、飛躍的に寿命が伸びることから「勉強のやり直し」もある程度可能になると考えられます。「やっぱり勉強し直して司法試験を受けたい」「医師になりたい」「会計士になりたい」など、歳を理由に諦めていた挑戦が可能になります。従って、大学や専門学校は、これらの学生で繁盛するのではないかと予想されます。しかし、医師・弁護士・会計士など、いわゆるゴールデンライセンスと呼ばれる資格の競争率も、恐ろしく跳ね上がると考えられます。 しかし逆に、少子化が進むと考えられるため、小学校~高等学校は減少するのではないかと予測します。

何となく面白そうなので、不老社会についてシミュレートしてみました。まだまだ思いつきそうですが、キリがないので、このあたりで。

以上、冒頭のセリフは、本作の登場人物である遊佐さんが言ったもので、グッときたけど長くなりそうなので、まあいいや、、、というお話でした。

■作品;「百年法(上)(下)」

■著者;山田宗樹

■刊行;2012年7月

■版元;角川書店

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