島田荘司:「ロシア幽霊軍艦事件」の感想と、王室について。

王室なんてね、芸能界と同じ、王や王女に見えるように毎日演技する、そういう世界なんだからね。

※新潮文庫 ロシア幽霊軍艦事件 名探偵 御手洗潔 島田荘司著 P160より引用

こんにちは。読書@toiletです。

読書@toiletの読書日記も兼ねて読んだ本の紹介させていただいてます。

ロシア幽霊軍艦事件 名探偵 御手洗潔

本作「ロシア幽霊軍艦事件」は、御手洗シリーズの15作目となる作品だと思います。御手洗シリーズでは、実際の謎に天才 御手洗潔が新しい発見と解釈を与える形で、事件を解決する作品があります。「水晶のピラミッド」がそれに当たりますね。

本作も水晶のピラミッド同様に、世界最大の王室「ロマノフ家(ロシア)」とロシア革命の歴史の闇に埋もれた悲劇を御手洗潔が暴くストーリーになっています。通常の作品と違う部分は、殺人などの事件は絡まないため、探偵としての御手洗よりも、むしろ学者としての御手洗が強く出ていると感じました。

御手洗独特の毒のある言い回しや、本質をつく思考、思わず吹き出してしまう風変わりな言動は控えめなので、そのようなシーンを楽しみにしている筆者のような人間には、ほんの少しだけ残念に感じるかもしれません。

ただし、作中に出てくる複数の謎が、終盤で思いもよらない角度から収束していく鮮やかさは健在なので、読んでいて十分に楽しい作品でした。

ロマノフ家

筆者は世界史を全く勉強しなかったため、本書を読むまで恥ずかしながら、ほとんど知りませんでしたが、本書は歴史上でも有数の大王朝「ロマノフ朝 ロシア帝国」の滅亡を舞台に動いてい行きます。調べてみると、本書の骨格はほとんど史実通りに書かれていますね。

強大なロシア帝国

本作中にも御手洗の発言で紹介されていますが、非常に広大な領土と多くの人民を統治していたようです。

20世紀初期の時点で、国土は現在のロシア連邦の全領土に東欧や北欧、中央アジアの国を加えたもので、面積にして22,800,000平方キロメートル。世界の陸地の約六分の一に相当する広さ。当時、広大な植民地を支配していたイギリス帝国に匹敵する規模となります。人口は約1億人で、その殆どは東ヨーロッパに居住していた模様です。全盛期のオスマン帝国には及びませんが、世界有数の王朝だったことがわかります。

ロシア革命

しかし、この巨大な帝国も1917年のロシア革命で終焉に向かいます。この辺りの時代は「怪僧ラスプーチン」など世界史に疎い筆者でも少し聞いたことのあるワードが出てきますね。史上初の社会主義国家(ソビエト連邦)樹立に直結するため、大きな世界の転換点となります。ちょうど日露戦争で日本軍に押されていた、ロマノフ家の当主であるニコライ2世は急速にその求心力を失っていき、最終的に革命軍によって処刑されてしまします。

ちなみに2018年開催のワールドカップで、日本代表がセネガルと対戦し、世界からも非常に高い評価を得た試合がありました。こn試合会場となったエカテリンブルクが、ロマノフ最後の皇帝、ニコライ2世一家が監禁され、処刑された地でもあります。

本書では、本当かどうか知りませんが、格差が極限まで広がった状態でも絢爛豪華の宮殿生活を謳歌していた王家に対する一般庶民の憎しみが暴発し、王家の人間に対する陵辱の数々が王家側の視点から生々しく描かれています。

本書を読むと「革命とは何なのか」単に日頃のうっぷんを晴らすための、大義名分でしかないか?と少し考えさせられる部分があります。

アナスタシア皇女

本書の主要な登場人物であるのが、この「アナスタシア皇女」。先の述べた「ロマノフ家」の最後の皇帝となったニコライ2世の第四皇女。ロシア革命で超法規的に処刑されるという悲惨な最後を迎えるロマノフ家ですが、なぜかこの「アナスタシア皇女」のみ生存したという伝説が割と最近まであったようです。筆者は全く知りませんでしたが。

これは、いくつかの偶然か重なっているようで、

✔ ソビエト連邦共産党が「処刑されたのはニコライ2世のみで、家族は生存している」と偽情報を流し続けていた

✔ 後に見つかった、ニコライ2世皇帝一家のものと見られる遺骨の数が2人分不足しており、遺骨の分析結果で微妙に意見が割れた。

✔ 「私がアナスタシアだ」と名乗る女性がたくさん現れた。

などから、アナスタシア生存伝説が長く語られることになったようです。また、同時にニコライ2世が3つに分けて残したとされる莫大な財産の内、2つは発見されましたが、残り1つが未発見であることも、伝説への興味拍車を掛けたものと思われます。

アンナ・アンダーソン

本書で、御手洗潔と石岡和己を除く、主要人物が彼女です。やはり筆者は知りませんでしたが、実在した人物で、彼女をモデルにハリウッドで2回も映画化されている有名人だったようです。彼女が先に述べた「アナスタシア生存伝説」の主役であり、数多くの偽アナスタシアと違い、非常に長い期間、アンナ・アンダーソン=アナスタシア皇女の真偽を巡って論争となっていました。本書は、この「アナスタシア生存伝説」の真偽に御手洗潔が挑む図式となります。

顔が明らかに生前のアナスタシア皇女と異なることや、母国語のロシア語を話せない、など明らかな矛盾点があるにも関わらず、宮廷生活を経験したものでなければ知らないはずの知識や、アナスタシア本人でなければ知りえない事実により、唯一、明確に否定されなかったアンナ・アンダーソンとは、どのような女性だったのか?ちょっと興味が湧いてきますね。

ロイヤルファミリーとは

冒頭のセリフは、もちろん御手洗潔が発したものです。「ロイヤルファミリー」は専制君主制のなごりで、ヨーロッパを中心に世界中に存在しますが、世界で最も歴史を有しているのが、日本の天皇家となります。次いでデンマークの王室、カナダ・オーストラリアなどの国家元首で、恐らく世界一知名度のある王室が、イギリス王室(エリザベス)かと思います。専制君主制のなごり、と書いたように日本を含め、ヨーロッパの殆どの王室は統治権を持ちません。このような王室は、まさに御手洗の言う通り、ロイヤルファミリーを演じているのでしょう。

このように書くと、まるでただのお飾りのように聞こえてしまいますが、果たして一般人にロイヤルファミリーを演じることができるでしょうか?筆者のような庶民には、皇室の暮らしなど想像もできませんが、やはり難しいのではないでしょうか。王を演じることができるのは、王の器をもった人間でなければならないと思います。

あぁ、やはり散漫な記事になってしまいました。本書は筆者が期待する、御手洗らしい言動が少なく、史実にフィクションを加える展開は面白かったのですが、御手洗シリーズとしては、、、、推して知るべし、というお話でした。

■作品;「ロシア幽霊軍艦事件 名探偵 御手洗潔」

■著者;島田荘司

■種類;ミステリー

■刊行;2015年2月

■版元;新潮文庫

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