だから、本当に見えているときは答えが先に見えて理論や確認は後からついてくるものだ。
※PHP新書 直感力 羽生善治著 P20より引用
こんにちは。読書@toiletです。
読書@toiletの読書日記も兼ねて読んだ本の紹介させていただいてます。
■目次
直感力
本書は将棋棋士、羽生善治さんによる著作で「決断力」「大局観」に続く新書版です。既に何度も書いていますが、羽生さんのファンなので、決断力、大局観の記事も書いています。
参考 決断力・大局観の記事はこちら
2018年6月18日現在、竜王・棋聖の2つのタイトルを保持し、現在、名人位の獲得を目指して挑戦しながら、棋聖の防衛に向けて豊島八段を迎え撃っています。ここのところ戦績がよくないので心配ですが、是非とも両タイトルを獲得・防衛してほしいものです。
本書で羽生さんは将棋において「読み」「大局観」「直感力」の3つの能力を駆使して闘っていると述べています。これらの能力については、将棋に限ったことではなく、日常生活やビジネスシーンでも大いに活躍するもので、羽生さんは、これらを一般化して書いているため、将棋を指さない方にも大変参考になると思います。
読み~ひと睨み200手~:
将棋というゲームは、運の要素がまったくないため、理論上は相手の手を完璧に予測することが可能です(実際には分岐が膨大になるので、ほぼ不可能ですが)。従って、自分が指した手の後に、相手がどう指してくるか?を予測し、なるべく自分が有利になるよう考えます。この思考が「読み」ですね。プロ棋士ともなると読む局面や手数の数は膨大になると思います。昔の棋士で木村義雄14世名人という方の発言では
「ひと睨み200手」
とのこと。また将棋連盟会長の佐藤康光さんは若い頃
「1秒で1億と3手読む」
と言われていました。どちらも誇張された表現なので、実際はそんなに読めないと思いますが。
この「読み」の力は、やはり若い方が強力で、若手の棋士は「読みの力」を前面に出して戦うことになります。
ビジネスの場面に置き換えると、自分の提案や進行中のプロジェクトに対して、いくつかのケースを想定しシミュレートする行為になります。
大局観:
「読み」が脳をフル回転させて正確に5手~10手先を予測しようとする行為に対し、(実際にはプロ棋士を持ってしても、複雑な中盤~終盤の局面で10手先まで正確に予測することは至難だそうです。)「大局観」はもっと感覚的に局面を捉え、「何となく10手先、20手先に良くなっていそうだ(もしくは間違いではなさそうだ)」と判断する能力だと思います。対局経験の絶対数が少ない若手棋士には、あまり育っておらず、ベテランの棋士に発達する能力のようです。
ビジネスシーンでは、新しいプロジェクトを始める時などで、大きな方針を決める際に発揮される能力と似ていると思います。
直感力:
本書を読んで筆者が感じたものは、直感力と「読み」「大局観」は似ているが、別種の能力だということです。直感力とは理論や能力を超越して「瞬時に最善を導き出す能力」となります。羽生善治さんは、対局中に、ある局面における最も良い一手「最善手」が瞬時に、しかも確信を持って見えることがあると述べており、これを可能にするのが「直感力」とのことです。
ビジネスで置き換えることは、ちょっと難しいですが、松田聖子さんの結婚報道で「ビビッときた」という発言がメディアを賑わせましたが、これが近いように思います。ビジネスや投資に限らず、あらゆる勝負事において、この直感力が高い人は成功する可能性が高いと考えます。
直感は磨くことができる
直感力は誰でも持っているものだと思いますが、ワンピースで登場する「覇王色の覇気」のように、選ばれた人間のみで発揮される能力のように感じます。ところが羽生さんは、この能力は磨くことが出来ると述べています。
直感とは何か
本書で羽生さんは直感について、「積み重ねによって、無意識下で瞬時に行われた論理的思考」と位置づけています。論理的な思考は主に脳の前頭葉を使って行われるものです。脳では無数のニューロンが発火し電気信号をやり取りすることで、思考をしていますが、ずっと同じ思考を繰り返し行うことで、ニューロンの発火がパターン化し結合が生まれ、学習が生まれたのではないか?と述べられています。
つまり「超高速で全自動な論理的思考=直感」と言えます。
多様な価値観が重要
羽生さんは直感を磨くには、多様な価値観を持つことが重要だと述べています。筆者は、直感とは思考の積み重ねによって醸成されていくものなので、色々な経験をして、そこから何かを吸収し価値観を変えていくことが、さまざまな論理的思考を可能にするからだと考えます。
以下、羽生さんの言葉で語られている部分を引用します。
近視眼的な成果にばかり目を奪われ、あるいはデータに頼って情報収集に終始することでは、おそらく足りない。それらに対する意識は不要とまではいわなし、またそれらはたいてい気づかぬうちに判断材料に入ってしまいがちなものである。しかし、であるからこそ意図的にそれらをセーブしなければならない。
そして自分の思うところーー自分自身の考えによる判断、決断といったものを試すことを繰り返しながら、経験を重ねていく。
※PHP新書 直感力 羽生善治著 P34~35より引用
目先の損得に目を奪われ、無駄を一切排していては不足する。昨今、その存在感を加速度的に増している「データ」ですら、収集するのみでは十分でない。己の思考による判断や決断こそが経験となり、価値観をもたらし、直感を磨くことにつながると読み取れます。
直感を信じる力:結局、自然体が一番なのでは
別の記事でも触れましたが、羽生さんの特徴は自然体であるということだと思います。大変重要な対局の時は、肩に力が入りがちです。しかし羽生さんの指し手や感想戦でのコメントから「あぁ、力んじゃったのかな~」という感じはないように思います。「いやぁ、ちょっと難しい気がしましたが、、、、やってみようかと」「なんとなく今日の気分で、、、」みたいなコメントが散見されます。当然、入念な準備もされているとは思いますが、大きな対局、例えばタイトル戦に向けて、とっておきの作戦を用意する、といった行為は皆無だと思います。
「今、興味があるものを本番でぶつけてみる」
「直感を信じて、やってみる」
もちろん、羽生さんをもってしても、うまくいかない場合も多いと思いますが、自然体に構え、自分の直感を信じてみることから、直感力を磨くことは始まるのかなと思います。そして、人より少しでも直感力に磨きがかかると、人生において大きな力になるのかなと。
以上、筆者は羽生信者なので、本記事については、読者諸氏はある程度、補正をしながら読んでいただきたい、という内容でした。
■書名;「直感力」
■著者;羽生善治
■刊行;2012年11月
■版元;PHP新書