誉田哲也:「武士道セブンティーン」の感想と、武士道を語る吉野先生がカッコいい件について。

武者の生業(なりわい)は戦うこと。武士の生業は戦いを収めることだ。

※文春文庫 武士道セブンティーン 誉田哲也著 P306より引用

こんにちは。読書@toiletです。

読書@toiletの読書日記も兼ねて読んだ本の紹介させていただいてます。

武士道セブンティーン

本書「武士道セブンティーン」は、誉田哲也先生による、青春スポーツ・エンタメ小説「武士道シリーズ」の第2作となります。

参考 第1作「武士道シックスティーン」の記事はこちら↓

誉田哲也著 武士道シックスティーンを読んだ感想を書いています。

第1作では、主人公である磯山香織と河本(甲本)早苗が出会い、各々が入学、そして入部した東松学園剣道部で衝突し切磋琢磨し、強い絆を育んでいく物語でした。既に全日本中学選手権の準優勝者である磯山香織は、主にその精神面を、河本(甲本)早苗は、主に剣道の実技において大きく成長しました。ところが、さぁ次の年はどのような活躍を見せるのか?といったところで、河本(甲本)早苗が九州に引っ越すことが決まり、転校してしまう。。。といったところで終わっていたと思います。

従って、当然ながら第2作となる本作は、その続編という位置づけとなります。磯山香織・河本(甲本)早苗が、神奈川と福岡にそれぞれ分かれ、しかし第1作で築いた絆を細らせることなく、再び剣道に没頭していくストーリーです。

本シリーズの冠である「武士道」についての言及もあり、ただの青春エンタメ小説の域を超え、人間のあり方についても考えさせられる良書です。

登場人物

繰り返しますが、本作から河本(甲本)早苗が九州・福岡に引っ越したため、新しい人物が登場します。本シリーズは登場人物が大変に個性的で、これが本シリーズでの魅力でもあるのですが、今回も強烈な個性を帯びた人物が加わります。以下、ネタバレに気をつけながら、少し紹介させていただきます。

黒岩伶那(くろいわれな):

河本(甲本)早苗が九州・福岡への引越しに伴い、転校した高校「福岡南高校」の剣道部に所属する同級生。福岡南高校は剣道の名門校であり、その実績は河本(甲本)早苗が神奈川時代に在籍していた東松学園を大きく上回る。部員の数も数十人に登り規模も大きく、全国大会での上位入賞の常連校である。その中において黒岩伶那は2年生にして、重要試合のレギュラーを不動のものにしており、剣道の実力は折り紙付き。

激しい気性の持ち主であり、剣道の勝負に拘る考え方は磯山香織を彷彿とさせるが、転校生である河本(甲本)への気遣いや、太宰府天満宮のある太宰府市の名物である梅が枝餅を好むなど、ある程度の協調性や女子高生らしい面もあり、磯山香織ほどの特殊性は感じられない。

剣道に対する真摯な姿勢は、磯山香織・河本(甲本)早苗と共通するものであるが、考え方が決定的に異なる。磯山香織・河本(甲本)早苗が、剣道を「武道」として捉えているのに対し、黒宮伶那は「競技」として捉えている。よって、剣道のルールの曖昧さ、例えば一本を取る際の「残心」や「打ち込みの姿勢」などを廃止し、反則についても明文化し、ボクシングのような高度競技化が必要と考えている。この点について、磯山・河本(甲本)と衝突する。なお磯山香織とは因縁があるが、これはストーリーに関わる部分となるため、ここでは伏せる。

剣道の実力は非常に高く、珍しく構えは上段(竹刀を振りかぶる形で構える、攻撃重視の構え)を採用している。また「高度競技化」への考えから、どのような打ち方をしても「一本は一本」、反則スレスレの行為でも、規則を逸脱していなければ反則ではないとの信念を持ち、独自の打ち方を探求している。その中には「座頭市」を参考にした、冗談のような打ち方もあり、剣道のオリジナル性を大変重視している

容姿は背が高く、やや色黒ではあるが抜群のスタイルを有し、フランス人との混血であることから、ハッキリとした顔立ちの大変な美人として描かれている。なお話す言葉は博多弁。

吉野正治:

福岡南高校剣道部にいる3人の顧問の1人。福岡南高校では3人の顧問と1人の監督がいるが、普段の稽古は3人の顧問の元で3班に分かれて行われる(もちろん全体稽古もある)。先述した黒岩伶那、河本(甲本)早苗が所属する3班は、吉野正治の班である。武士道シックスティーンの記事では、西荻(甲本)早苗と表記していたのが、本記事で河本(甲本)早苗と表記しているのは、この吉野正治が以下の理由で「甲本」は名前が悪いという理由で、河本早苗で登録したためである。その描写である、河本(甲本)早苗と吉野正治の会話を、以下に引用する。

「字が、いけん。漢字が、よくなかね」

ハァ?

「お前のォ、名字のォ、漢字がァ、よくないィゆーとーよ」

「え・・・・よく、ないって・・・・何が、ですか」

「だからァ、漢字がよくないィゆうとーやろうが。お前のコウモトの、コウの字は、どういう意味ばい」

「どういうって・・・甲羅の、コウとか、甲乙の、コウとか」

「ちがァァァーう。俺は今、剣道の話ばしようとやろうが」

えっ、分かんない。なに?なに?

「剣道の話ばしとるときに、コウはコテのコウに決まっとろうがッ」

確かに、コテは「甲手」とも書くけど。

「はぁ・・・・でも、それが、何か」

「何かやなか。つまりお前の名前は、甲手の元っちゅう意味やろうが。それは、まんま・・・ここ」

自分の右手首を叩く。

「コテを打ってくださいと、そう相手に、ゆうとるのと同じやろうがッ」

※文春文庫 武士道セブンティーン 誉田哲也著 P70~71より引用

上記の会話からも見て取れる通り、教師としては相当に型破りの人物である。風貌も期待を裏切らず、ヨレヨレのトレーニングウエアにボサボサの髪、常に酒臭い息を吐き、近寄るとスエた臭いも交じることから、河本(甲本)早苗は毎日の入浴を怠っていると予想している。剣道の防具も古びたものを使用しており、浪人のような描写が見られる。しかし、剣道の実力に関しては、恐らくシリーズ中で最上位に位置される。また普段のいい加減な言動からは想像し難いが、剣道を大変に広い視野と深い考察を交えて捉えており、実は立派な武道家という一面を持つ。

インターハイを目前に、不良高校生13名と木刀一本で渡り合い、全員を血祭りに上げ、本人のみが無傷だった伝説を持ち、公式試合で目立った実績はないが、非公式試合で400戦無敗など同世代では名前を知られた剣道家である。

本シリーズの要所に登場し、その深い洞察と考察で磯山香織・河本(甲本)早苗・黒岩伶那を導く役割を果たす。

武者の生業(なりわい)は戦うこと。武士の生業は戦いを収めることだ。

冒頭のセリフは、磯山香織の父が、磯山香織と河本(甲本)早苗の剣道を比較、批評した際に、「河本(甲本)早苗の剣道は武士、磯山香織の剣道は武者のそれに近い」との発言を受け、「武者と武士の違いは何か?」との問に対して発せられたものです。

本作とは全く関係がないですが、「武」については、少年チャンピオンで長年に渡り連載された「刃牙シリーズ」で板垣恵助先生がうまく解説していますね。曰く「戈を止めると書いて『武』」であると。

磯山香織の父親も同様の意味のことを言っていると思います。まぁ「強さだけが剣道ではない」といったことでしょうか。

以降、武士道シリーズは「武士道エイティーン」「武士道ジェネレーション」と続きますが、高校生の成長物語から、「武士道とはなにか」にテーマが移っていく気配があります。テーマの移ろいに伴い、本シリーズの読みどころも、人間のあり方について考える部分に移っていき、青春スポ根エンタメ小説の域を超えていきます。

だいたいシリーズものでは、第1作が最も面白いことが多いのですが、巻数を重ねるごとにテーマが重みを増し、読み応えも増していく本シリーズは珍しいと感じています。

以上、第4部「刃牙道」の連載が完結してしまったが、新たな連載が早くスタートしないかなぁというお話でした。

■作品;武士道セブンティーン

■著者;誉田哲也

■種類;エンタメ

■刊行;2011年2月

■版元;文春文庫

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