浅田次郎:「プリズンホテル 4 春」を読んだ感想。いい仕事で、人を唸らせるうちは、まだまだ、ということ。

人を唸らせるうちは、まだまだだそうです。

※集英社文庫 プリズンホテル 4 春 浅田次郎著 P237より引用

こんにちは。読書@toiletです。

読書@toiletの読書日記も兼ねて読んだ本の紹介させていただいてます。

プリズンホテル 4 春

本書は浅田次郎先生の「プリズンホテル シリーズ」最終作です。前作、プリズンホテル 3 冬は、生きるとは?死ぬとは何かについて、ちょっと考えさせられる内容でした。

参考 プリズンホテル 3 冬の記事はコチラ↓

浅田次郎 著「プリズンホテル 3 冬」を読んだ感想です。

最終作となる本作は、「春」とある季節の通り、「別れ」と「新しい出発」がテーマになっている気がします。ただ、内容は1~2作と同様に、どんちゃん騒ぎの享楽的なタッチに戻っていますので、割とスラスラ読み進めることができます。

シリーズを結ぶ刊としてふさわしく、主人公でベストセラー作家で人格破綻者:木戸孝之介が、文壇最高の権威『日本文芸大賞』(本作によるフィクション)に、新作恋愛小説と、極道小説「仁義の黄昏」の2作品がエントリーされ、その受賞までの経緯を軸に展開します。

ベストセラー作家ではあるが、あまりにリアルな業界(ヤクザ屋さん)事情と、平均して2Pに一回は登場する露骨な性描写が売れた理由なので、極道作家と見られている木戸孝之介。

ついに、作家として「アガリ」の日本文芸大賞を受賞し大団円となるのか?それとも?

プリズンホテルシリーズの従業員や常連の任侠団体(ヤクザ屋さん)も全員集合の「プリズンホテル 4 春」は、正にシリーズ完結編にふさわしい作品です。ぜひ、手にとって読んでいただければと思います。

参考 プリズンホテル 1 夏の記事はコチラ↓

浅田次郎 著「プリズンホテル 1 夏」を読んだ感想です。

参考 プリズンホテル 2 秋の記事はコチラ↓

登場人物

オーナー:木戸仲蔵を頂点とする、関東桜会内木戸組(要するにヤクザ屋さん)によって経営・運営されている「プリズンホテル」。毎回、業界人(ヤクザ屋さん)に紛れて、ちょっとワケありの一般宿泊客(カタギさん)が混じって、大騒動が巻き起こるのですが、本作も例外なく、魅力的な人物が登場します。以下、その紹介です。

木戸富江:

木戸孝之介の義母。プリズンホテルシリーズを通して全作に登場する。本作では、木戸孝之介が「日本文芸大賞」にノミネートされたと同時に行方をくらます。日本文芸大賞の選考と並行して木戸富江の捜索が本作の軸となる。

木戸孝之介の実家であるパンツ工場に、女工として集団就職する。木戸孝之介の実母が、工場の若い工員と駆け落ちし家を出た後、木戸孝之介の父と結婚し、以降、義母として木戸孝之介を育てる。

「グズでノロマでブス」「実年齢より10歳は老けて見える」と表現されるように、容姿はかなり冴えない。また筆者が憧れてやまない田村清子に負けるとも劣らない天然ボケである。木戸孝之介が外泊中、宿泊先のホテルから小説の資料をFAXで送付するようにお願いすると、ファクシミリ本機を宅急便で送ったりする

以下、日本文芸賞ノミネートの報を受けた際のシーンが富江の天然ボケをよく表しているので抜粋する。

「でも、孝ちゃんなら取れるわよね。あんなに頑張ったんだもの。夜も寝ないで、ご飯食べてるときも、うんこしてるときも、ずっと小説書いてたんだもの」

・・・中略

「いえいえ、孝ちゃんはちがうわ。あたし知ってるもの。なにしろうちのおトイレには机があるんだから。うちの孝ちゃんうんこもごはんも小説も、いっぺんにやってたんだから。カレーライスとワープロを持っておトイレで唸ってたんだから」

※集英社文庫 プリズンホテル 4 春 浅田次郎著 P46~47より引用

コミュ障の木戸孝之介からは、言葉の暴力・実際の暴力を日常的に振るわれており、大変にひどり扱いを受けているが、その実、木戸孝之介は富江のことを深く愛している。

暴力を振るうことでしか「愛」を表現できない、木戸孝之介を誰よりも理解している。

容貌が優れず、決して頭も切れる方ではないが、血縁のない木戸孝之介の全てを受け止めきる、菩薩のような人格者

梶平太郎:

プリズンホテルが改装される前(先代)からの従業員。

プリズンホテル料理長。広域指定の任侠団体:関東桜会の直系である木戸組によって運営されているプリズンホテルで、数少ない「カタギ」の従業員。絵に描いたような職人であり、天才的な料理人

その料理は、信じられないほどに美味しく。同じく若干30歳にして、国内最大のホテルチェーン「クラウンホテル」の料理長を勤めたが、陰謀により、現在、梶の元で働いている天才シェフ:服部正行の評価を、以下、抜粋する。

あなたはどうして、そんなにも大量に使う塩を、すっかり殺してしまうことができるのですか。

あなたの作る料理は、どうしてそんなにも芳醇な甘さに満ちているのですか。

あなたの作る雑炊は、どうして米粒のひとつひとつが、兵隊のように同じ大きさに揃っているのですか。

あなたは半年も塩漬けにした山菜を、どうして今しがた山で摘んできたもののように、蘇らすことができるのですか。

あなたの切った食材は、魚も、肉も、野菜も、どうしてみな生きているのですか。

あなたの料理を口に入れたとたん、人はなぜ同じ顔をして笑うのですか。うまいでも、すばらしいでもなく、なぜ毒のあるきのこを口に入れたように、笑い出すのですか。

※集英社文庫 プリズンホテル 4 春 浅田次郎著 P232より引用

小俣弥一:

プリズンホテルの宿泊客。プリズンホテルのオーナー木戸仲蔵の親分であり、広域指定の任侠団体(ヤクザ屋さん)前組長:故・相良直吉の義兄弟。現在85歳。「緋桜の弥一」「シッピンの弥一」などの二つ名を持つ、生粋の極道であり博徒(つまりヤクザ屋さん)。

52年前、悪徳警官による在日朝鮮人への差別がまかり通っていた時代、それを容認できず、警察署へ日本刀をぶらさげてカチコミをかける。警官2名殺害の上、逮捕され刑務所に収監される。

以降52年間、仮釈放もされることなく懲役刑を受けていたのだが、それは警察の管理システムの間違いだった。

一本木で、歯切れの良い物言いは、別シリーズの「天切り松(村田松蔵)」を彷彿とさせる。

参考 天切り松シリーズのまとめ記事はこちら↓

浅田次郎先生の「天切り松シリーズ」名言まとめです。

以下、小俣弥一をよく表すセリフを抜粋する。

「おい、なめるなよ。五十二年の懲役はダテじゃねえぞ。俺ァその間、塀の向こうでいろんな人間に出会ってきた。いいか、てめえの人生てえのは、てめえで変えようとしなけりゃ変わるもんじゃねえ。お天道様が下さる幸せなんざ、どこにもありゃしねえんだ。運はてめえの手で掴め」

※集英社文庫 プリズンホテル 4 春 浅田次郎著 P316より引用

人を唸らせるうちは、まだまだだそうです。

これは、天才シェフ:服部正行のセリフです。富江の行方がわからなくなり、落ち込む木戸孝之介が服部の料理を食べた際に唸ったシーンで発せられました。

服部の師匠曰く、本当に美味しい料理を食べた時、人は笑うのだそうです。よって、人を唸らせるうちは、まだまだとなります。

これは料理に限った話ではないと思います。仕事にしろ、映画にしろ、芸術にしろ、本当に良いものに出会った時、人は唸るのではなく、幸せな気持ちになるのだと思います。筆者もそんな仕事ができるよう、日々精進を積み重ねたいと思います。

以上、筆者も一度でいいから、プリズンホテルに宿泊してみたい、というお話でした。

■作品;プリズンホテル 4 春

■著者;浅田次郎

■種類;エンタメ

■刊行;2001年11月

■版元;集英社文庫

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