池井戸潤:「半沢直樹シリーズ 2 オレたち花のバブル組」を読んだ感想。理想のビジネスマンについて考えてみた。

「もう一度いう。見たことも会ったこともない者を社長に据えるような再建計画なんかゴミだ。なんであんたがそんなバカでもやらないようなミスをしたか、教えてやろうか?それはな、客を見ていないからだ」

※文春文庫 オレたち花のバブル組 池井戸潤著 P261より引用

こんにちは。読書@toiletです。

読書@toiletの読書日記も兼ねて読んだ本の紹介させていただいてます。

半沢直樹シリーズ 2 オレたち花のバブル組

本書は池井戸潤先生の大ヒットシリーズ「半沢直樹シリーズ」の第2作目です。2013年7~9月クールの日曜21時枠で、空前の高視聴率を記録した「半沢直樹」は、第1作「オレたちバブル入行組」と本書「オレたち花のバブル組」の2作を原作にしています。

参考 「オレたちバブル入行組」の記事はコチラ↓

池井戸潤 著「半沢直樹シリーズ オレたちバブル入行組」を読んだ感想を書いています。

「やられたらやりかえす、倍返しだ」のフレーズと共に、一世を風靡したドラマ「半沢直樹」ですが、ほぼ原作を忠実に再現しています。ジャニタレなどの固定ファンを持つキャストを起用せず、恋愛もなく、人気アーティストによる主題歌もない、ひたすら銀行員が悪戦苦闘するドラマが、一体なぜ多くの視聴者を惹きつけたのでしょうか。

ビジネスマンの理想像:半沢直樹

筆者は本シリーズの主人公:半沢直樹が、理想的なビジネスマンの一形態だと考えています。いや、男の生き方としても理想的かも知れません。筆者は浅田次郎先生の天切り松闇がたりシリーズに登場する「黄不動の英治」が最高の男だと考えていますが、半沢直樹にも共通する面が多くあります。

参考 黄不動の英治に関する記事はコチラ↓

格好がいい男に、勝ち組も負け組もない。年収の高い低いもない。あるのは「心意気」ただ一つ。 浅田次郎 天切り松 闇がたり 残侠 感想を書いています。

少し横に逸れましたので、話を戻します。

ドラマをご覧になった方は、よくご存知だと思いますが、半沢直樹は全く運のない人間です。第1作~第2作では

(1) 支店長マターの西大阪スチール案件で、融資先に計画倒産され、5億円が回収不能になり責任を一手に負わされる

(2) しかも、西大阪スチールの計画倒産は、支店長もグルだった!

(3) なんとか支店長の陰謀をくぐり抜け、本社のエリート次長に栄転したら、今度は頭取マターで倒産しかかってる名門「伊勢志摩ホテル」の担当にされてしまう

(4) 更に担当変更の直後に、金融庁検査が入ることが決定。金融庁のターゲットは半沢直樹が担当して間もない「伊勢志摩ホテル」

(5) 金融庁の検査官は、メガバンクの一角を破綻に追い込んだ札付きで、しかもオネエ!!

と、いつも危機的な状況にいます。(1)~(2)が第1作、(3)~(5)が第2作に該当します。

本作「オレたち花のバブル組」の主軸になる「金融庁検査」って何?という問いに対する解説が本書にありましたので、抜粋します。

ちなみに、金融庁検査のルールはまことに簡単だ。

全ての融資先を「安全な先」「ちょっとアブナイ先」「かなりアブナイ先」「もうイッちゃってる先」の四つに分けるのだ。検査では、その分け方が正しいかどうかを議論するのである。

結論からいうと、「安全な先」であれば、なんら問題はない。

ところが、「ちょっとアブナイ先」以下になると、それぞれ「引当金」という、倒産したときのための準備金を経費として計上する必要があって、これが銀行の業績を直撃する痛手となりかねない。

そのため、なんとか「この取引先は安全な先ですから」と主張する銀行側と、「それはちょっと違うんじゃねぇか。アブナイ先に格下げしやがれ」という金融庁との丁々発止のやりとりが検査のメーンイベントになるのである。ちなみに「安全な先」のことを業界用語で「正常債権」、「アブナイ先」のことを「分類債権」と呼ぶ。

※文春文庫 オレたち花のバブル組 池井戸潤著 P23より引用

つまり、「分類債権」が増えてしまうと、経費として「引当金」を計上しなくてはならなくなり、巨額の損失が発生し、銀行の業績を直撃する。

で、金融庁が「絶対に分類債権にしてやるぞ」とターゲットにしてるのが、半沢直樹が直近で引き継いだ伊勢志摩ホテルで、その伊勢志摩ホテルは普通に検査を受けると間違いなく分類債権になる会社だけど、銀行の業績がバカみたいに悪くなるから、絶対に「正常債権」と認めさせろ!と、頭取から指示があったということです。

「これ、無理じゃね?ていうか理不尽じゃね?つーか、頭取が検査対応しろよ!あ、また陰謀か何か?」

となりますね、普通。

こんな無理難題にも、半沢直樹は決して諦めません。そして卑怯な方法も使いません。金融庁の担当者にも、行内の有力者にも、おもねることなく、へりくだることなく、真っ当で自分が最善だと信じる方法を貫き通します

そして最終的には、全ての勝負に勝利するのです。

「結果が全て」であるビジネスの世界においては、方法にこだわることは大変に難しいことです。「結果を左右するキーマン」に対しては、決して逆らうことなく、なんとか自分の望む結果に誘導できるよう、ご機嫌を取りながら様子を伺うことが定跡だと思います。ましてや、意見を対立させ、あまつさえ押し通ることなど、まず不可能です。

その意味で、半沢直樹は、全てのビジネスマンの「理想像」ではないでしょうか。

誰に頼ることなく、権力者に逆らっても、己の腕力のみで押し通る、勝ち切ることができる

これは世のビジネスマンが夢に描く理想の姿だと思います。

それはな、客を見ていないからだ

本記事の冒頭にピックアップしているセリフは、半沢直樹が、常務取締役である大和田暁に対して、放ったものです。

至言だと思いました。

仕事とはいったい誰のために行うものなのでしょうか。それは、クライアントのために行うものだと思います。BtoCであれば、自分のサービスを受ける人のために、BtoBであれば、自分のサービスを受ける顧客のために行われるものであるべきです。

その結果として、自身が所属する組織が、または自身そのものに対価が還ってくる、これがビジネスの理想形のはずです。

なかなか困難なことですが、この本筋を絶対に譲ることなく、結果を出し続けているのが、本シリーズの主人公:半沢直樹なのです。

別に、やられたらやり返す、倍返し、10倍返しする人は、確かに頼もしくありますが、決してビジネスの本質ではないと思います。

仕事は誰かの役に立ってなんぼ、だから、常にクライアントに照準を合わせているべきだ、と、格上の上司にもハッキリと宣言してしまうバカ正直さ、そして実力でねじ伏せ、勝ち切る強さへの憧れ、が、かくも人気を博した根幹だと筆者は考えています。

以上、とは言いつつ、おべんちゃらで出世できるのなら、そんな楽な話はないから、そっちがいいなぁ、というお話でした。

■作品;オレたち花のバブル組 

■著者;池井戸潤

■種類;経済小説,エンタメ

■刊行;2010年12月

■版元;文春文庫

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