限られた範囲で「完璧」を追求しても、視野を広げてみるとあまり意味がないことが多いのである。
※ちくま新書 ムダな仕事が多い職場 大田肇 著 P76より引用
こんにちは。読書@toiletです。
読書@toiletの読書日記も兼ねて読んだ本の紹介させていただいてます。
ムダな仕事が多い職場
某大手広告代理店での過労死事件が一つのきっかけとなり「働き方改革」重要政策課題として取り上げられることが多くなっています。
働き方改革については、以前こんな記事も書きました。お時間があれば、どうぞ。
参考 記事はコチラ↓
日本は他国に比べて長時間労働が大変に多い。売上と利益を減らすことなく、労働時間を短縮するにはどうすればいいか?まず取り組むべきは、「ムダを無くす」ということですね。
では、ムダは具体的にどんなことか?
日本企業の非効率な働き方、これはもうWEB上で散々指摘されています。
✔ 1時間とか1時間半とかかけて、通勤するとか意味わからん
✔ 会議のための会議とか何なの?
✔ ってか、会議自体が必要ない。全部Slackでよくね?百歩譲ってもビデオ会議で十分
✔ 稟議書ってなに?決定事項に時間がかかって仕方ないんだけど
✔ そもそもオフィスに毎日行く必要ある?テレワークって言葉知ってる?
✔ 企業のムダは中間管理職のおっさんが9割
本書はそんな「職場のムダ」について、単なる効率化のハウツーを超え、仕事やサービスに対する考え方まで言及しています。そのために、特に日本企業内で発生しており、かつ十分に認識されているにも関わらず、「なぜか無くならないムダ」についても掘り下げられています。
その点が、他の「定時で帰っても成果を出せる〇〇メソッド」的な書籍とは違うところです。働き方改革の本質的な部分をわかりやすく論じていると思いました。
日本のムダ。その殆どは「オフィスワーカー」
筆者が本書を読んで「あーそうか」と気付かされたことの一つに、日本企業全体が非効率なわけではない。生産現場は依然として世界最高水準の生産性を誇っている。非効率なのはオフィスワーカーの働き方なのだ、ということでした。
本書にある象徴的な記述を抜粋します。
とりわけ日本企業ではホワイトカラーの生産性が低く、その一因が会議にあるといわれている。実際、末松らの分析では、製造現場のQC(quality control:品質管理)サークルの会議は世界最高レベルだが、ホワイトカラーの会議は世界最低レベルである(前掲:末松 二〇一六)
※ちくま新書 ムダな仕事が多い職場 大田肇 著 P59より抜粋
ここで出てくる「末松」とは、経営コンサルタントであり、京都大学 末松千尋教授のことを指します。
筆者はなんとなく漠然と、「日本企業の働き方は全体的に質が低く、非効率でムダが多い」と思い込んでいましたが、生産現場のレベルは大変に高いらしい。
つまり、オフィスワーカーの生産性を高めれば、日本企業の競争力は飛躍的に高まるということです。
この事実だけでも、少し希望が持てるような気がしますね。
完璧とは何か?
本書では、オフィスワーカーの生産性が低いという問題点を指摘し、
✔ 日本の雇用形態(終身雇用と年功序列)のメリット・デメリット
✔ 完璧主義すぎる日本人の姿勢
✔ 工業社会として発展してき日本の「非効率なクセ」
✔ 根本的にムダを減らすためのパラダイム・シフト
などの観点から、生産性をいかに高めていくか?に展開します。
どれも、筆者には腑に落ちるものでしたが、中でも「『完璧主義』が実はムダにつながっている」という部分に感銘を受けました。
WEB上でも、同じような指摘は、様々な方々がされています。仕事に100点満点は必要ではない。むしろ60点くらいでいいので、スピードを重視し、不完全な部分は実行に移しながら補っていけばいいという主張です。
本書では、もう少し高い視点から「完璧主義」について考察しています。その考察が端的に表れているのが、本記事のタイトル『限られた範囲で「完璧」を追求しても、視野を広げてみるとあまり意味がないことが多いのである。』となります。
以下、もう少し具体的な記述を下記に抜粋します。
建築業者の話では、いくら費用がかさんでも地震や火災に対して絶対に安全な家をこしらえてくれという人が世の中に一定数いるそうだ。自動車業界も近年は安全性を徹底的に追求するようになっているが、それも完璧な安全性を追求する潜在的な顧客が少ないからだろう。
しかし周囲を見渡してみると、災害リスク削減にそこまでこだわりながら、大酒を飲んだりタバコを吸ったり不摂生な生活をしている人がいるし、絶対に安全な車に乗りながら、車から降りたら平気で信号無視をする人もいる。
※ちくま新書 ムダな仕事が多い職場 大田肇 著 P75~76より抜粋
つまり、自然災害や自動車事故による死亡リスクを完璧にヘッジしても、健康リスク・歩行時の事故のリスクに無頓着であるため、結果として死亡リスクは、全くヘッジ出来ていないということです。
限られた場面・部分でのみ完璧を追求しても、全体を視野に入れた時の結果が全く変わらない、これを著者は完璧主義によって発生する大いなるムダだと指摘しています。
筆者も実は、この「完璧主義」が生産性を頭打ちにする大きな原因だと考えます。
工業生産において「製品が完璧であること」は大きな競争力でした。不良品が少なく故障も少ない工業製品は、今もって世界に冠たるものだと考えています。
工業生産における生産物である「製品」は、人間の生活における非常に限られた一部分を担うものです。その非常に限られた一部分について、完璧に機能する製品を作ることは大変に高い価値があると思います。
しかし、オフィスワーカーの生産物は工業製品ではありません。多くの場合は、アイデアであったり計画であったり、人間による思考のアウトプット=生産物となります。これは、工業製品に対して、担うもしくはカバーする範囲が広いものになります。
現在の日本では、上記に述べた「工業生産」と「思考のアウトプット」という、全く異なる生産物を同じ方法で追求し、同じような尺度で評価しようとしているため、一方の生産性が非常に高く、一方の生産性が非常に低いという現象が起きていると考えます。
オフィスワーカーの生産性向上には、「思考のアウトプット」を、出来るだけ正確に評価できるシステムが必要です。
以上、結局、オフィスワーカーの仕事は適当にやるのが一番効率的なんじゃね?、、、とういお話でした。
■作品;ムダな仕事が多い職場
■著者;大田肇
■種類;ビジネス書,新書
■刊行;2017年10月
■版元;ちくま新書