池井戸潤:「下町ロケット」を読んだ感想。チームをまとめる方法について考えてみた。

寝不足の頭に、その意味はワンテンポ遅れて染み込んでくる。キャッチフレーズがヘタクソな文字で書かれていた。

ーー佃品質。佃プライド。

※小学館文庫 下町ロケット 池井戸潤 P359より引用

こんにちは。読書@toiletです。

読書@toiletの読書日記も兼ねて読んだ本の紹介させていただいてます。

下町ロケット

本書は第145回、直木賞受賞作にして、池井戸潤先生のヒットシリーズ「下町ロケットシリーズ」の第1弾です。

第2弾の「下町ロケット ガウディ計画」と併せて、2015年にTBSの日曜日21:00枠でドラマ化されました。最終回は20%を上回る高視聴率を叩き出し、2015年の民放ドラマでの最高視聴率になったと記憶しています。

参考 下町ロケット ガウディ計画の記事はこちら↓

池井戸潤 著「下町ロケットシリーズ ガウディ計画」を読んだ感想を書いています。

更に、2018年10月14日(日)より、同じくTBSの21:00枠で、ドラマの続編がオンエア予定です。こちらは、シリーズ第3弾「下町ロケット ゴースト」が題材になるようです。

今から、大変に楽しみです。

中小企業がロケットを打ち上げること。

本作は国家機関である宇宙科学開発機構の科学者で、国産ロケットの打ち上げミッションでロケットエンジン開発に携わった佃航平を主人公とする物語です。

佃航平はこのロケット打ち上げに自らが開発したロケットエンジンの動作不良による失敗で、宇宙科学研究所を去り、実家である中小企業「佃製作所」の社長として、第二の人生をスタートさせます。しかし、中小企業であるが故の脆弱な経営基盤により、様々な困難と戦うこととなります。

そんな困難にも負けず、ロケットエンジンのキーテクノロジーである、バルブシステムを開発し、「佃製作所の社長」という立場から再びロケット打ち上げに関わり、己の夢である国産ロケット打ち上げに邁進していきます。

キーデバイス「バブルシステム」:

筆者も全く知りませんでしたが、非常に難易度の高いロケット打ち上げミッションの中でも、とりわけ開発が困難な部品が「バルブシステム」と呼ばれるデバイスです。

これは、ロケットエンジンに採用される水素エンジンの燃料である、液体酸素と液体水素を内燃機関に供給するシステムで、大変に過酷な環境でも正常に作動する信頼性が要求されます。

以下、その困難さが端的に表現された箇所を抜粋します。

液体燃料エンジンを搭載するロケットにおいて、バルブシステムは、極めて過酷な使用環境に置かれる運命にある。

燃料である液体さんの沸点はマイナス一八三度、液体水素にいたってはマイナス二五二.六度という低温だ。この液体燃料を燃焼室への注入量を調節しコントロールするのがバルブの役目だが、その動作環境は真空から三百気圧以上の高圧、さらにマイナス二五三度の低温から、五〇〇度の高温までと幅がある。もちろん、その環境下で正確に動作するシステムを構築するのは非常に高度な技術を要するため、各国ロケットメーカーにとってはトップシークレット扱いになっているほどだ。

※小学館文庫 下町ロケット 池井戸潤 P248より抜粋

いかがでしょう?つまり、バルブシステムを制するものはロケットを制す。バルブシステムの信頼性が、そのままロケットの信頼性に直結する、正にキーデバイスです。

佃製作所は、そんな重要部品の特許を、僅差で帝国重工より先に取得します。そして、国産ロケットプロジェクト「スターダスト計画」を推進する、超巨大企業「帝国重工」から、その特許の買い取り、もしくは特許使用契約を打診されます。

当時、佃製作所は様々な理由から、資金難に喘いでおり、

特許買い取り費用:20億

特許使用費用:1年=5億

を、帝国重工から打診されます。

ちなみに佃製作所の売上は百億円足らずの、正に中小企業です。この記事を読んでいる皆さんが、佃製作所の社長だとしたら、どう判断するでしょうか?

買い取りで20億、使用料でも年間5億。破格の条件です。一も二もなく、いずれかを選択することでしょう。

しかし、佃航平はそのいずれも断ります。自社で「バルブシステム」を生産し、部品供給をすることを選択します。

中小企業の意地:

中小企業庁が公表しているデータでは、現在日本の労働人口=4,794万人の内、中小企業が抱える労働人口は、3,361万人で、これは約70%に相当します。

※出典 中小企業庁:http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H29/PDF/h29_pdf_mokujityuuGaiyou.pdf

つまり圧倒的多数の人間が働くのは中小企業ということです。その中小企業が本書では、国を代表する超大企業にひと泡吹かせています。帝国重工(おそらくモデルは三菱重工)をキーデバイスの開発で凌ぎ、更に豊富な資金力を背景にした札束による打診を袖にし、自社の要望を貫き通したのです。

損得計算でもない、おそらく論理的な説明もつかない、「夢」をゴリ押しし、更に実力で上回り、そのゴリ押しを実現させます。

池井戸潤先生の最も有名であろう作品「半沢直樹シリーズ」でもあった構図、「弱者が強者を打ち負かす」、そんな「爽快感」が、本シリーズの魅力になっています。

参考 半沢直樹シリーズの記事はこちら↓

池井戸潤 著 半沢直樹シリーズの印象に残るフレーズをまとめました。

集団がまとまるには、「敵」と「困難」があるといい。

本作の読みどころは、最初はバラバラだった佃製作所が、次第に一つにまとまっていく様子にあります。

まず、社長である佃航平が、およそ論理的整合性を欠く、

「金はいらんから、ロケットエンジンのバルブシステムを、作りたいんだ!」

という主張に対して、佃製作所社内は真っ二つになりました。

それはそうだと思います。普段、売上を伸ばすことに必死な営業部員や、少ない研究開発費で少しでも有利な技術を開発しようとしているスタッフ、全員が苦労している中、何十億もの収益機会をスルーして、「金はどーでもいいんだ!俺の夢を叶えさせてくれ!」と社長が言いだしたら、頭がどうかしたのかと思います。

しかし、佃製作所のロケット賛成派・反対派に共通の敵が現れます。帝国重工の検査部隊です。

ロケットではバルブシステム以外の部品、それこそネジ1本に至るまで、究極の信頼性が求められます。ちょっとでも不備があると、ロケットは成層圏にすら届かず、何百億という費用と一緒に海の藻屑となります。

従って、外部から部品供給を受けるに当たって、厳しい検査が必要でした。

その検査担当メンバーが、大企業に所属するというだけで、上から目線の大変に嫌な人間達だったのです。だいたい、大企業の看板だけで仕事をしている人間は、いけ好かない人間が多いのですが、大企業の看板を後ろ盾に威張ることだけは上手なのです。

このように、

✔ 帝国重工による品質テスト=困難 → 佃品質でテストをクリアするぞ!

✔ 帝国重工のテスト担当者=共通の敵 → 佃プライドにかけて、ヘコましてやるぞ!

上記2つが作用して佃製作所は一つにまとまります。

この記事のタイトルに使用しており、冒頭に抜粋している部分が、佃製作所が一つにまとまった瞬間です。

以上、組織のリーダーは、その組織をまとめるために、いつも敵と困難を探していないといけない気がするなぁ、というお話でした。

■作品;下町ロケット

■著者;池井戸潤

■種類;経済小説,エンタメ

■刊行;2013年12月

■版元;小学館文庫

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