佐藤多佳子:「一瞬の風になれ」を読んだ感想。運動神経とか運動センスについて考えてみた。

陸上やってる奴が、なんであんなにタイムのことばっかり言うのか、少しだけ理解できたよ。名刺代わりとか看板とか思ってたけど、それだけじゃないね。出したタイムって、ほんとに”俺のもん”なんだよね。面白いや。

講談社文庫 一瞬の風になれ 第1部ーイチニツイテー 佐藤多佳子著 p125より引用。

こんにちは。読書@toiletです。

読書@toiletの読書日記も兼ねて読んだ本の紹介させていただいてます。

一瞬の風になれ:第4回 本屋大賞受賞作

本書は佐藤多佳子先生による、高校陸上部を舞台とした、書き下ろしの長編小説です。陸上競技の題材では、駅伝やマラソンが採用されることが多いのですが、本作は珍しくスプリント、100Mやリレーにスポットがあたっています

本書の執筆にあたり、佐藤先生は実際の高校陸上部へ取材に赴き、その期間は3年に及んだとこの戸。読みやすい文体と、情感たっぷりの会話表現、スリリングが展開で、すぐに物語にどっぷりとハマってしまいます。

2007年に第4回本屋大賞、更に吉川英治新人文学賞を同時に受賞したこともうなづけますね。

そして、何より筆者も高校時代は陸上競技部に属し、スプリント、つまり100M・200Mを主軸とする競技者だったため、特別な思い入れのある作品です(笑)

陸上競技におけるスプリント種目、100M・200Mは残酷で爽快だ:

陸上競技において「短距離」と呼ばれる種目は、100M・200M・400Mを指します。

その中で、400Mを除く、100Mと200Mを「ショートスプリント」もしくは「純正短距離(純短)」と呼ばれ、オリンピックでも必ず各国でTV中継される、花形種目です。

本書「一瞬の風になれ」では、主人公、神谷新二にスプリント種目の才能があり、高校生活を通して、競技力とともに人間としての精神的な成長を描いていますが、更に神谷新二の才能を上回る人間も多く出てきます。

一般に100Mや200Mは、生まれ持った素質に大きく左右される種目と言われます。本書でも以下のように、表現されています。

「スプリンターは生まれつきなの」

谷口がまたやけにきっぱりと言う。

「特にショート・スプリントを走れるランナーは限られてる。神谷くんは、その一人よ」

講談社文庫 一瞬の風になれ 第二部ーヨウイー 佐藤多佳子著 P25より抜粋

実際に陸上競技でショート・スプリントの経験者である、筆者の考えも同様です。100M・200Mでは、どうしようもない素質の差は存在します

そういう意味では、ショート・スプリントほど残酷で理不尽なスポーツもないでしょう

野球やサッカーであれば、ある程度、「見せ場」も作れます。

例えば、

✔ バッティングはうまくなくても、守備だけは誰にも負けない。

✔ 走塁は苦手だけど、肩の強さでは誰にも負けない。

など、それに合わせて、「練習の成果が出た」という場面もあり、自分で納得することも可能だと思います。

しかし、ショート・スプリント、特に100Mはおよそ10秒しか時間がありませ。もう「練習の成果」が出るか出ないかとかのレベルではなく、スタートしたら終わっていて、レースに勝てるのは、出場選手の中で、ただ1人です。

どんなに練習をしていても、どんなに頑張っていても、10秒で試合が終わり、結果が誰の目にも明らかな形で判明する。

そして、その勝敗を動かそうにも、どうしようもない生まれ持った素質が壁として立ちはだかる。

こんなに理不尽で残酷なスポーツも、あまりないのでは?と思います。

レースに勝てれば、確かに、こんな爽快なものはないですが。

ショート・スプリント、100Mに必要な素質とは?:

先に述べた通り、ショート・スプリント、特に100Mにおいては、どうしようもない素質の差が存在します。

では、その素質とは何なのか?を考えてみます。

100M走とは、どんな競技か?

100M走の素質とは何か?を考えるにあたって、まずは「100M走ってどんな競技か?」を考える必要があります。

「ヨーイ・ドン」

で走って、誰が一番にゴールするかを競うスポーツと言ってしまえば、それまでなのですが、、、

筆者は、100M走=自分の体重を誰が一番はやく100M移動させることができるか?を競うスポーツと考えています。

ここでのポイントは、「速く走る」ではなく「速く体重を移動させる」という点です。

100M走に必要な素質は、力の流れを理解できる能力:

100Mを速く走るのに必要な要素として、一般的に思い浮かぶのは

✔ 強い筋力

✔ ものすごく速く動く手足

くらいではないでしょうか。

しかし、先述した通り、

100M走=体重移動の速さを競う

とすると、強い筋力も、速く動く手足も、最重要な要素ではなくなります。

筆者の経験から、10秒台で100Mを走る場合、約45~48歩くらいになると思います。これは、地面から推進力を得る機会が、45~48回しかなく、また、減速の原因が45~48回もあることを意味します。

地面に足が接地していない時は、空中に浮いており、その間は、どんなに筋力が強くても、手足が速く動いていても、まったく意味がありません。

45~48回、地面に接地する瞬間を、もっともブレーキが少ない角度で入り、もっとも反力を地面から得られる角度でインパクトを作り、インパクトの一瞬に最大の出力を集中できるか、が、100Mを速く走る全てです。

これ以外の要素は、ほぼ関係ないと筆者は考えています。

これは、もう教えられてできることではありません。説明されてわかっても、体で再現できるようなものではないからです。

トップスプリンターを、ビデオ撮影してスロー再生してみると、理想的な足運びをしているのですが、本人もイチイチ考えて走っているわけではなく、自分の感覚だけを頼りに走っており、また接地時間は、ほんの一瞬であるため、意識で捉えることが不可能なのです。

なので、接地の瞬間の

もっともブレーキが少ない角度=こんな感じ

もっとも地面の反力を得られる角度=こんな感じ

もっともインパクトに適した瞬間=こんな感じ

という一連の「力の流れ」を直感的に理解出来、かつ再現できる能力=スプリントの素質&才能

と考えています。

ちなみに、筆者の考えでは、上記の才能は10秒50を上回るには、おそらく必要になってくるのかなぁと感じています。

11秒を切るまでは、これほどの特別な才能は必要ないかと。

最後に少しだけ自慢をしますと、筆者のベストタイムは11秒00と10秒50のちょうど中間くらいです。

以上、「力の流れがわかる才能」って、格闘マンガ「バキ」で、範馬勇次郎が言ってたなぁ、というお話でした。

■作品;一瞬の風になれ(第一~三部)

■著者;佐藤多佳子

■種類;小説

■刊行;2009年7月

■版元;講談社文庫

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