「僕は、自分に課している事柄がいくつかある。そのひとつは、食通になるなということなんだ。」
※文庫版 御手洗潔の挨拶 数字錠 島田荘司著 P71より引用。
想像を超える連続の展開が睡眠不足を誘発する 御手洗潔ミステリー 珠玉の短編集
こんにちは。読書@toiletです。
読書@toiletの読書日記も兼ねて読んだ本の紹介させていただいてます。
■目次
御手洗潔の挨拶:食通の本質
島田荘司の人気シリーズ、御手洗シリーズの第3作。今回は短編集です。
冒頭のセリフは本作の(シリーズ全般を通して)主人公、御手洗潔が、とある人物と食事をしている時の発言です。
御手洗は多くのミステリー小説に登場する名探偵のように、精密かつ天才的な頭脳の持ち主ですが、非常に風変わりな人物でもあります。
その風変わりな性格により、周囲からは狂人のように扱われることも多いのですが、独特の比喩表現を多用した発言は示唆に富んでおり、色々と考えさせられることが多くあります。
✔ まったくお金に興味がない
✔ 女性よりも犬のほうが好き
✔ 物事に熱中しだすと寝ることや食べることを忘れてしまう
✔ 人の名前を覚えるのが苦手だが、数字の羅列を覚えるのは得意
✔ 社会的地位のある人物には尊大に、逆に社会的地位の低い人物には丁寧に接する。
本作までの御手洗の特徴の一部は上記のようなものですが、本作でもう一つ特徴が明らかになりました。
✔ 御手洗潔とは食べ物にはまったく興味がない人間である。
ところが、
「食通になるな」
と、自分を戒めている御手洗は、タイトルの発言の後、フランス料理に詳しく、以前に論文も書いたことがあるとも述べています。
矛盾していますね。普通、食について論文をかけるような人間は食通だと思うのですが。
食通;意味
食通(しょくつう)とは、料理の味や料理の知識について詳しいこと。またそれを詳しく知っている人物のことである。
※2018年1月20日時点、ウィキペディアの冒頭記載内容。
ウィキペディアが示す、つまり一般的な意味の食通であれば、御手洗は十分に食通です。
恐らく御手洗が律している「食通」とは独自の価値観によるもので、一般的な意味合いとは微妙に違うのだろうと予想されます。そこで御手洗が言う「食通」の定義とは何なのか?具体的な事例を交えて私の考えを述べてみたいと思います。
「海の宝石箱やあー」など数々の名言で知られる、有名グルメレポーター:
あのコメントはアドリブか?台本か?たぶん前者だと思います。
(A)一般的な見解=食通である
(B)御手洗の見解=食通ではない
年間1,000杯のラーメンを食べ歩く、ラーメン評論家:
ラーメンブームがあった時、いろんな方の記事を読みました。
(A)一般的な見解=食通である
(B)御手洗の見解=食通ではない
雑誌やTVに登場する有名料理研究家:
一度お仕事で、お世話になりました。
(A)一般的な見解=食通である
(B)御手洗の見解=食通ではない
セレブな私生活が話題を呼ぶ一流芸能人:
正月にテレビ特番でも放送される某格付けチェック番組で連勝記録更新中
(A)一般的な見解=食通である
(B)御手洗の見解=食通ではないと考えられるが、確信は持てない
行列のできるレストランの料理をリア充アピール目的で投稿するSNSユーザー:
(A)一般的な見解=投稿頻度と投稿数によっては食通である
(B)御手洗の見解=投稿が一つでもあれば食通である
ここででAとBは何が違うのか?
AとBの違いは、
- アウトプットの目的が料理自体にある
- アウトプットの目的が、料理を食べる(もしくは作る)自分にある
です。
さらに平たく言うと、人に自慢したい気持ちや、優越感を満たす気持ちがあるかどうか?となります。
従って、御手洗の言う食通とは「自らの優越意識を満たすために料理を利用している人」と考えられます。
占星術殺人事件の記事でも書きましたが、御手洗は自己の優越意識を満たすための行動や考え方を非常に嫌いますので、論理的整合性はあるはずです。
参考 占星術殺人事件の記事はこちら↓
このように、御手洗が作中で披露する風変わりな表現や考え方を、あれこれ考えて自分なりの解釈をもたせると、どんどん御手洗のことが好きになり、本シリーズが大好きになっていきます。
御手洗シリーズの醍醐味であり、大きな楽しみでもあります。
まぁ、あまり小難しく考えると本を読むこと自体が面倒くさくなる気がしますし、多かれ少なかれ、ファンであれば、どんな小説にもあてはまる楽しみ方だと思いますが。
この本を読むなら、こんな人
✔ 占星術殺人事件を読んで御手洗シリーズが好きになった
✔ 異邦の騎士を読んで御手洗シリーズが好きになった
✔ とにかく御手洗潔っておもしろい、と思った人
✔ もっと御手洗潔を好きになりたい人
※もちろん、上記以外の方が読んでも面白いです。
■作品;「御手洗潔の挨拶」
■著者;島田荘司
■種類;ミステリー
■刊行;1991年4月
■版元;講談社